ギイと暮らし始めた家に、矢倉と八津が遊びにきてくれた。 アメリカ生まれのギイは、二人を連れて、家の中を案内した。 日本人だと部屋を見られるのってちょっと躊躇するんだけど、ギイはそういうのはぜんぜん平気みたいだ。 まぁ見られて困るものもはないからいいんだけど、やっぱりこのあたりの感覚が違うなぁと今さらながらに実感する。 「そういえば、犬飼い始めたんだろ?」 矢倉がどこにいるんだ?と辺りを見渡す。 「ああ、犬、大丈夫どうか分からなかったから・・・二人とも平気?」 「大丈夫だよ」 八津も会いたいと目を輝かせる。 それじゃあと、ぼくは隣の部屋からあんこを抱きかかえてリビングへと戻った。 「うわー、可愛いな。真っ黒なラブラドール」 「まさかラブとは思わなかったな。これ、でっかくなる犬だろ?」 二人はまじまじとあんこを見て、感想を述べる。 あんこは人見知りをしない子なので、大きな目でじーっと二人を眺めている。 「抱かせてもらってもいい?」 「うん」 八津の腕にあんこを渡すと、あんこは大喜びで尻尾を振った。 「何て名前?」 「あんこだよ」 「え?」 「あんこ」 「・・・あんこ?」 八津はしばらく考えたあと、盛大に吹き出してくれた。 「ごめん、すごく意表を突かれたもんで」 「あんこって何だ。食べるあんこか?」 矢倉も笑いをこらえた顔をしてあんこの背を撫でている。 ギイがほらみろと言わんばかりの顔をしているのがどうにも納得できない。 「あんこねぇ、葉山が名づけたんだろ。ギイならもっと小洒落た名前にしそうだもんな」 「矢倉のネコだってそうとう変わった名前だから、いい勝負だと思うけど」 八津が笑いながら矢倉へとあんこを渡す。 「矢倉くん、ネコ飼ってるんだ?」 「実家でな」 「何て名前?」 「・・・・シナチク」 シナチク?? それは、あんこといい勝負なのではないだろうか。 もしシナチクを食べてた時に思いついたのだとしたら、ぼくと同じようなものだけど、どうやらそうではないらしい。 「可愛いだろ、シナチク」 「あんこだって可愛いよ」 「お前ら、感覚似てるんだな」 ギイがしみじみと言うと、矢倉は何だか複雑そうな表情をした。 あんことシナチク。 きっと誰が聞いてもペットの名前だとは思わないだろう。 だけど、つけた本人はいたく気に入っているのだから、何の問題はない、とぼくは思う。 |