(笑ってる) 校舎から寮へと続く道。 託生は1年の時に同室だった片倉と肩を並べて歩いていた。 2年になって、同室になって、やっと少し話をするようになって。 だけど託生はまだあんな片倉に見せるような無防備な笑顔をオレには見せない。 (可愛いなぁ) 何だあの子供みたいな笑顔。 ちょっとはにかんだような、優しい笑顔。 (いいなぁ、オレにもあんな顔見せてくれないかなぁ) 片倉はほんの少しの距離を置いて託生の隣にいる。 人間接触嫌悪症のことを理解していて、託生が心を許せる唯一の親友だ。 何を話してるのか、二人ともやけに楽しそうだ。 (どうしたらあんな笑顔見せてくれるのかなぁ) 見つめていると、その視線に気づいたのか、託生がふいに顔を上げた。 目が合うと、きょとんとしたように瞬きをして、それから少し笑った。 困ったような、だけど今までなら絶対に見せないような柔らかい笑顔。 オレは軽く手を上げて、そのまま逃げるように窓辺から離れた。 「しまった」 あれは反則だ。 見たい見たいと恋い焦がれている笑顔だけれど、実際に目にすると、その破壊力は半端ない。 「だけどやっぱり可愛い」 柄にもなく顔が赤くなっているのに気づいて、オレはひとつ息を吐いた。 もうすぐ託生が戻ってくる。 それまでには火照った顔を何とかしなくては。 |