コンプリート


「章三くん、ケンタッキー食べたい」
「・・・」
ランチ何にする?と聞いたら、奈美が即答した。
ファーストフード?太るからやだって言ってたはずなのに?
だいたい何でそんなに嬉しそうなんだ?
「・・・また何かあるのか?」
一応聞いてみると、奈美はうんうんと頷いて、ぼくのシャツの肘のあたりを引っ張った。
「あのね、今ムーミンのマグカップがおまけでついてるの。4種類あるんだけど、さすがに一人じゃ集められないし」
「・・・・」
「すごく可愛いから集めたいんだよね」
「・・・分かった。協力してやるよ」
やれやれ。
だいたい奈美がいつもと違うことを言い出す時は何かあるのだ。
それは小さい時から変わらない。
「で、何色が欲しいんだ?」
店先でマグカップの写真を眺める。
ピンク、ブルー、グリーンに、特別なデザインの紺色のヤツ。
それにしてもムーミン・・・。可愛いのかそうでないのかよく分からない。
何だって女の子ってこういうのが好きなんだろう。永遠の謎だ。
「何色、って全部集めたいんだけど」
「は!?じゃあコンプリートパックにしろよ」
「えー、そんなのつまんない」
「全部欲しいんだろ?」
「何が出るか分からないからいいんじゃない」
「・・・」
奈美はさっさとオーダーを済ませ、お目当てのマグカップを受け取った。
自分の分と僕の分と、手渡されたマグカップは二つ。
「さぁ、何色が入ってるかなぁ」
席につくと、奈美は楽しそうに箱を開けた。
中から出てきたのは、ずいぶんとシックな色合いのマグカップだ。二つとも同じヤツ。
「え、これって星空デザイン?・・・レアなヤツだけど・・」
「へぇ良かったじゃないか」
「でも二つともって、えー!!そんなのひどいー」
奈美は心底残念そうに肩を落とす。僕から見れば、それはそれでいいんじゃないかとも思うのだ。
レアなのが二つも揃うなんてラッキーなことだ。
「だって、グリーンのが欲しかったんだもん」
「贅沢言うな」
「ねぇ、明日も付き合って?」
「・・・・コンプリートパックにしようぜ」
そしたら一回で済む。
めちゃくちゃ合理的じゃないかと思うのだが、どうも奈美には不評だった。


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あとがき

毎年集めてしまうよね。今年のも可愛い。