苦手



集団生活をしている寮でインフルエンザが流行ると大変なので、12月になると街から医者がやってきて、一斉に接種を受けさせられる。
半強制的に。
「憂鬱だ」
順番を待つギイがうんざりしたようにつぶやいた。
「ギイ、注射嫌いなの?」
「好きなやつがいるか?」
「ていうか、実は怖いとか?」
ぼくが笑って軽くこづくと、ギイは露骨に眉をしかめた。
「怖かねぇよ」
「でも嫌なんだ?」
くすくす笑うと、ギイははーっと大きくため息をついた。
「あの針の入る感覚がなぁ。すごいリアルだろ?身体の中に入ってるなーって分かるのが苦手なんだよ」
え、針が入ってるなーなんて分かるかな?
ぼくが首を傾げていると、ギイの方が不思議そうな顔をした。
「託生は苦手じゃないのか?」
「そりゃ好きじゃないけど、でもそこまで嫌ってわけじゃないよ」
まぁ痛いのは嫌だけど、あっという間だし。
「憂鬱だ」
「ほら、ギイの番だよ」
ぼくはぽんとギイの背中を押す。
渋々と前へ進み出るギイを見ていると、まるで小さな子供みたいで、何だか可愛いなぁなんて思ってしまう。
なるべく注射されているところを見ないようにしているギイに、ぼくはやっぱり笑ってしまって、ギイに睨まれた。



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あとがき

意外と託生くんはへっちゃらだといい