その時、ぼくは図書室に新しく入ったばかりの推理小説の本を読むのに夢中だった。 つんつんと腕を突かれて生返事をすると、ギイが 「託生、口開けて」 と言った。 ぼくは視線は本に向けたまま少し顔を上げて、言われた通り口を開けた。 ぽいっと口の中へと入れられたものは、キャラメルだった。 「お裾分けな」 「うん・・・ありがと」 もぐもぐと甘いキャラメルの味を味わっていると、ぱかんと頭を叩かれた。 「いたいっ!」 思わず叫ぶと、そこには渋い顔をした章三がいた。 「赤池くん、いきなり叩くなんてひどいよ」 「お前な、何されるかも分からないのに簡単に口を開けたりするんじゃない」 「え、だってギイだよ?」 いくらぼくだって、赤の他人に言われたらそんなことはしない。 相手がギイだから素直に口を開けたのだ。 「ギイが相手だからってそんなに無防備でどうするんだ」 「え、駄目なの?あ、赤池くんでも口開けるよ?」 「は?」 「信用してるから」 うんうん、とうなづくと、章三ははーっとわざとらしく溜息をついた。 「ギイ、こいつの危機管理能力をもうちょっと何とかしろ」 「馬鹿だな、章三。託生はこれだから可愛いんだろ」 ニヤニヤと笑うギイに、章三が舌打ちする。 危機管理って、ギイと章三がいったいぼくに何をするというのだろう。 そのあともギイと章三はあーだこーだと意見を戦わせていた。 ぼくのことみたいだとは思うけど、どうも放置されてるっぽいので、2人を無視して小説の続きを読むことにした。 もうちょっと静かにして欲しいなぁと思うのは当然のことだよね。 |