珍しくギイより早く目が覚めたぼくは、二度寝すると今度こそ起きられなくなるので、少し早いけどベッドを抜け出して洗面所へと向かった。 制服のシャツを着て、ネクタイを締めている時に、ギイが低く唸って目を覚ました。 「あれ、託生、早いな」 「うん、おはよう」 ギイは乱れた髪のまま起き上がると、ぼんやりとぼくを眺めていた。 「なに?」 「いや、同じ部屋で寝起きできるのっていいなぁって、感動してた」 「え?今頃、なに言ってるんだよ」 4月に同室になってからもう3ヶ月がたとうとしているというのに、いったい何を言い出すのやら。 ぼくが笑うと、ギイは勢いをつけて立ち上がり、パジャマ姿のまま近づいてきて、ふわりとぼくを抱きしめた。 「託生」 首筋に顔を埋めて、そのままくんくんと鼻を鳴らす。 「ちょっとギイ、何だよ、何か変な匂いする?」 汗かいちゃったかな。シャワー浴びようかな、なんてぐるぐる考えていると、ギイがそうじゃないよ、と笑った。 「託生、いい匂いするなぁ」 「・・・あのね、ギイ」 ぼくは呆れながらギイの身体を何とか引き剥がして、薄いブラウンの瞳を覗き込んだ。 「前にも言ったと思うけど、ぼくはギイみたいにコロンなんてつけてないんだから、いい匂いなんてしないよ」 「いや、いい匂いがする」 ギイはうっとりと言うと、ぼくの額にキスをする。 「知ってるか、託生。自分にとって大切な人っていうのは、めちゃくちゃいい匂いがするんだぜ。だから、いい匂いがする人がいたら絶対に手放しちゃだめなんだ」 託生はめちゃくちゃいい匂いがする、とギイが嬉しそうに笑う。 ぼくは恥ずかしくて顔が熱くなりそうだった。 「ギイ、そのいい匂いって、どんな匂いなんだよ」 動揺する気持ちを誤魔化すために聞いてみると、ギイは 「幸せの匂い」 と言って、ぼくに口づけた。 「幸せの匂いってどんな匂い?」 そんな匂いあるの?と聞くと、ギイはぼくをそっと抱き寄せて、 「だから、託生の匂いだろ?」 と笑った。 リアリストのギイにしてはずいぶんと夢見がちなこと言うんだなぁなんて思いながら、でもちょっと嬉しくて、ぼくはギイの頬にキスをした。 |