東京にあるギイの家に章三と3人で集まるのは高校の時以来だ。 その日も家には誰もいないから、とギイが召集をかけたのだ。 「で、また僕が夕食当番なわけか」 「まぁまぁ。当番ったって、今夜は鍋だし、オレたちも手伝えるからさ」 「鍋ならなおさら僕を呼ばなくたっていいだろうが」 章三の意見ももっともだが、手作りのつみれなんてやっぱり面倒で、そういう手間を惜しまない章三がいてくれるとありがたい。 「鴨鍋かー。美味しそうだなぁ」 ぼくはぐつぐつと煮え始めた鍋を覗き込んで、お腹が鳴るのを感じた。 「葉山、もういいだろ。テーブルに運んでくれ」 キッチンである程度煮込んでから、ダイニングテーブルのカセットコンロの上に持っていこうという算段だ。 「えーっと、ねぇギイ、あれはどこ?」 「うん?」 「おててのやつ」 「は?」 ぼくの一言に、ギイと章三が同時に振り返った。 え、何かおかしなこと言ったかな。 「何だって?」 章三が低く聞き返し、ギイは少し考えたあと、ああ、と納得したようにうなづいた。 「鍋掴みか。確かここに」 「ちょっと待てギイ!」 引き出しを開けたギイに章三が待ったをかける。 「お前、葉山のふざけた発言はスルーなのか!」 「だから鍋を運ぶのに鍋掴みがいるんだろ?」 「じゃなくて、何だ、おててのやつってのは!!!!」 だから、鍋掴みだよ、と言いかけて章三のあまりのお怒りぶりに口を閉ざした。 「子供じゃあるまいし、いい年した男がおかしな言葉を使うんじゃない」 「うっかり出ちゃったんだよ。もー、赤池くんがうるさくするから煮えすぎちゃうじゃないか」 開いた口が塞がらない、といった表情の章三のを横をすり抜け、ギイから受け取った「おててのやつ」でぼくは美味しそうに出来上がった鍋を運ぶのだった。 |