晴れて恋人同士になれたというのに、託生はまだどこかオレと距離を置こうとしている気がしてならない。 人間接触嫌悪症はまだ完治とまではいってないから仕方がないとは言え、好きな相手に触れられないというのはやっぱり切ない。 「託生」 「なに?」 「触ってもいい?」 「えっ」 ぎょっとしたように託生が固まる。 いやだってさ、いきなり抱きしめたら困るだろ? だからちゃんとお許しを得てからなら大丈夫かなと思ったのだが、託生はじっとオレを凝視したまま何も言わない。 「ダメ?」 「・・・・じゃ、ないけど・・・」 「けど?」 託生はふっとひとつ息を吐くと、おずおずとオレの方へ近づいてきた。 そして意を決したようにオレへと手を伸ばしてきた。 ひた、っと託生がオレの胸元に触れる。 その瞬間、本当に心臓が痛くなったような気がして驚いた。 ああ、好きな人に触れられるっていうのはこんなにもドキドキするものなのか。 それはちょっと怖い気もしてならない。 もしかしたら託生も同じなのだろうか。だからちょっと躊躇してしまうのだろうか。 オレは両腕を広げると、そっと託生のことを抱きしめた。 「託生もドキドキしてる?」 「うん」 「オレも」 「嘘ばっかり。ギイはこれくらいのことでドキドキなんてしないだろ?」 託生が笑う。その笑顔にさえドキドキする。 「ほんとだって。託生だとドキドキする。だから一緒」 「・・・うん」 「ちょっとずつでいいからオレに慣れて?」 「うん」 胸の中で託生は小さくうなづいて、そしてオレの背中にそっと手を回した。 たったそれだけのことで、またドキドキとして苦しくなる。 ああ、誰かを好きになるっていうのはこういうことなんだな、と今さらのように思う。 託生がオレのことを好きになってくれてよかった。 好きだという気持ちを、諦めなくてよかった。 |