「ギイ、もう寒いから中に入ろうよ」 「せっかくの皆既月食だぞ、ほら綺麗じゃないか」 「うんうん、綺麗綺麗。うー、もう限界だ」 その場から逃げようとしてギイに捕まえられた。 ひどい。 いくら綺麗でもこんな寒い夜に見る必要があるのだろうか。 ギイは白い息を吐きながら興味津々といった感じだ。 その横顔の方が、欠けていく月よりもずっと綺麗だなと思って、一人照れてしまった。 月じゃなくてギイを見ていたくて、ぼくはひりひりとした寒さに耐えながらギイの隣で空を見上げ続けた。 ふいにギイがぼくの手を繋いだ。 「託生の手、めちゃくちゃ冷たい」 「そりゃそうだよ。寒くて死にそう」 がたがたと震えながら言うと、ギイはしょうがないなと笑った。 「死なれちゃ困るから。部屋に戻るか」 「ありがと」 「帰ったら一緒にシャワー浴びて温まろう」 「・・・うん」 別にたいしたことじゃないのに、あんまり幸せそうにギイが言うもんだから、恥ずかしくなってしまった。 月が消えてさっきよりも暗くなっていたから、たぶん赤くなった顔には気づかなかっただろう。 ほんのちょっと寒さが和らいだのは、きっと気のせいだろうけど。 |