夏休み、ギイに誘われて異国の地でバカンスとなった。 日本よりは少し涼しくて過ごしやすい。 あちこち二人で観光をして、美味しいものを食べて、これこそ夏休みという楽しい時間を過ごした。 「えっと、ホテルは・・・」 電車を降りて、ぼくはきょろきょろと周囲を見渡した。 (確か、あの銀行の看板を左手にして、真っすぐ歩けば・・・って違うな、そうそうコーヒーショップの角を曲がって・・・) 「託生、こっちだぞ」 迷いに迷っているぼくの手をするりと取って、ギイが歩き出す。 ギイも初めての街のはずなのに、一度も道に迷ったことがない。 「何でギイは道に迷わないんだろう」 「どうして託生は毎回道に迷うんだろう」 うわー、むかつく。 ぼくが軽くギイに蹴りを入れると、ギイはははっと笑った。 「何だかギイに甘えてばっかりだなぁ。お金の計算も任せっぱなしだし、通訳もしてもらってるし、何の役にも立ってないよね」 これじゃあ子供と同じじゃないかと少しばかり自己嫌悪に陥る。 ギイはそんなぼくの手をさらに強く握り締めた。 「そういうのはさ、できる人がやればいいだけだろ。オレはそういうの苦になってないし、むしろ託生が快適にバカンスを楽しんでくれるなら嬉しいし」 「・・・」 「託生は何の役にも立ってないなんて言うけど、そんなことない。オレは託生がそばにいてくれればそれだけで幸せだから」 「・・・恥ずかしいよ、ギイ」 海外にいると素に戻るのか、ギイの口説き文句はいつも以上にあからさまになっていく。ずいぶんと慣れたつもりでいるけれど、やっぱり面と向かって言われると身の置き所がない。 「それに海外だと素直に手も繋いでくれるし、少しくらいいちゃいちゃしたって許してくれるし、毎晩エッチもしてくれ・・・」 「毎晩なんてしてないだろっ」 「だよなー。お前、すぐ疲れたーって寝ちまうから」 不満たらたらのギイにぼくはしょうがないなぁと笑って、少し身体を寄せてみる。 「分かりました。じゃあ今夜はしよう。明日は何の予定もないしね」 周囲の誰も日本語なんて分からないと思ってもいても、ついつい小声になる。 ギイはよしっとガッツポーズなんてするものだから、何だかなぁと笑ってしまった。 いつもなら絶対口にしないような誘い文句も、海外だと普通に言えてしまうんだから不思議だ。 だけどこうして手を繋いで、ホテルに戻ったらギイといちゃいちゃできるのかと思うと幸せだなぁと思う。 「バカンスっていいね」 「うん?そうだな、1年に1回くらいはいいよな。贅沢しても」 うん、確かにギイを独り占めって贅沢だよね。 ぼくは繋いだ手をギイに負けないくらいに強く握り返した。 |