屋台1


夜になると、時々ぼくたちは散歩に出かける。
夏の暑さも過ぎて、ちょっと肌寒いくらいの夜の道をギイと歩いていると、何だか祠堂にいた頃を思い出す。
あの頃も、デートしようと誘われてこっそりと寮を抜け出した。
少し先を歩くギイは相変わらずの薄着で見ているぼくの方が寒さに震えてしまいそうだ。
今日の出来事や仕事の話、最近読んで面白かった本のことやテレビの話。
何てことのないことをとりとめもなく互いに報告する。
こんな風に、祠堂を卒業してからもずっと一緒にいられるなんて思ってもいなかった。
いや、そうなればいいなと思っていたけれど、やっぱり難しいだろうなとも思ってた。
「託生、いいもの発見した」
「え?」
ぴたりと足を止めたギイが指さす先にあるのは、今時は珍しい屋台のラーメン屋だ。
「いい匂いがしてるね」
「めっちゃ食べたい」
「こんな時間に?」
「こんな時間だからだろ」
悪戯っぽい笑顔は祠堂にいた頃のままだ。
ああ、やっぱりギイが好きだなと、何の脈絡もなく胸が熱くなった。
あの時、諦めずにギイのことを追いかけて良かった。
はふはふとラーメン食べながらこんなことを考えるのは何だか笑えて、だけどまぁこれもやっぱり幸せなことだろうなと思った。




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あとがき

屋台のラーメンってなぜか美味しい