屋台2


夏の暑さが終わり、秋の気配が心地よく感じられる時期になると、託生は時々「散歩に行こうか」と誘ってくる。
夜、二人きりで歩いているとそれだけで気持ちが満たされて、幸せだなぁと感じるのだからずいぶんと安上がりだなと思う反面、こうして一緒にいられること自体、奇跡のようなことだから、大切にしないといけないなとも思う。
途中で見つけた屋台のラーメン屋に並んで座ると、託生は物珍しそうに屋台の主人がラーメンを作る手元を見つめていた。
「託生、もしかして屋台初めて?」
「うん。だって滅多に見ないよね」
「外で食べるラーメンって美味いんだよなぁ」
出来上がったラーメンを食べていると、託生が何か言いたそうにオレを見た。
「どうした?」
「ううん。・・・美味しいなぁと思って」
ふわりと笑って、託生はつるつるとラーメンを口にする。
こんな時間にラーメン?なんて言ってたくせに、食べ始めるとずいぶんと嬉しそうにもりもり食べていた。
空腹を満たして、腹ごなしに少し遠回りしながら家路に辿る途中、託生はふいにオレの手を繋いできた。
「おや、珍しい」
「うん」
「明日は雨かな」
「大丈夫だよ。晴れるって言ってたし」
唇を尖らせて、だけど手を離すことはしない。
「ギイのことが好きだなぁってラーメン食べてて思ったんだよ」
「・・・・嬉しいけど、ラーメン食ってる時に、どういう脈絡だよ」
「ほんとにね」
「まぁいいや。託生に好きって言ってもらえるんならな」
調子に乗って頬にキスすると、さすがに託生は文句を言ったけれど、それでも手は繋いだままだった。



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あとがき

腹が満ちると幸せになるものだ