休日ともなると、祠堂の生徒たちは麓の街に下山する。山奥の全寮制の男子校にいる年頃の男子としては、何とかして女の子と知り合いになりたいと思うものである。 街で見かける可愛い女の子に果敢に声をかける者もいるにはいるが、なかなかそう簡単に出会いのチャンスというのはないのが現実だ。 もっとも放っておいても勝手に女の子が寄ってくる者もいる。 ぼくと章三が待ち合わせの喫茶店の二階へと上がると、ギイが座る席には女の子たちが座っていた。 「めずらしい」 章三の一言は、ギイが女の子たちに囲まれるのが珍しいという意味ではなく、それをギイが許しているということに対してである。 ギイと同席している二人の女の子は客観的に見てもとても可愛い子で、ぼくは何故かじわりと胸が痛くなった。 「どうしよう」 「何が」 章三はまったく気にした様子もなく、さっさとギイのテーブルへと歩き出す。 章三に気づいた女の子たちがぱっと立ち上がり、そして軽く会釈をするとぼくの横を通り過ぎて階段を降りていった。 「託生」 ギイがぼくを呼ぶ。何となく面白くなくて、無言のまま章三の隣、ギイの斜め前に座った。 いつもなら隣に座るのぼくに、ギイが少し眉を上げる。 「知り合いか?」 章三がギイに尋ねる。 「いや、初対面」 ふうん、そうなんだ。でも一緒の席で話をすることもあるんだ。 「相変わらずモテるな、ギイ」 揶揄する章三がちらりとぼくを見る。ぼくはふいっと顔を背けた。 「別にモテないぞ、なぁ、託生?」 だから何でその返事をぼくにするんだよ。 知らん顔してると、ふいにギイの手が伸びて、ぼくの鼻先をぎゅっと摘んだ。 「何するんだよ、ギイ!」 「何拗ねてるんだよ、託生」 くすくすと笑って、ギイがつんとぼくの額をつつく。 「彼女たちは別にオレに気があったわけじゃないんだよ。祠堂にはもっといい男がいるらしい」 「何だ、良かったな、葉山。ま、あれだな。女房が心配するほど亭主はモテないってやつだな」 「誰が誰の亭主だよ」 思わず声が小さくなってしまう。つまり彼女たちはギイ目当てではなく、祠堂の他の誰かのことを聞いていた、ということだろうか。 だとしたら、ぼくはずいぶんと見当違いなヤキモチを焼いていたことになる。 うわ、どうしよう。ちょっと自己嫌悪に陥りそうだ。そんなぼくにギイは小さく笑うと、 「で、章三。これ、お前にな」 と、するりとメモ用紙を滑らせた。 え。なに、それってもしかして・・・ 「モテるなぁ、章三」 今度はギイが揶揄して笑う。 電話番号とアドレスが記されたメモ用紙。 どうしてこんなもの受け取った!と言わんばかりの章三。 ギイにじゃなくて良かった、と思ってしまったぼくは、やっぱりちょっと反省してしまうのだった。 |