言葉にすれば


ギイはそういう時、ごくごく普通に、ほんとに衒いもなく、
「託生、今日抱いていい?」
と聞いてくる。
不思議なことに、ギイがそういう時は、ぼくもそういう気分だったりすることが多いから、断る理由なんて何もなくて、だけど二つ返事でOKするのも、ちょっと恥ずかしいので上手く返事ができずにいることが多い。
だけどギイはそんなぼくの心中なんてお見通しなので、ちょっと強引を装ってぼくを抱き寄せてくれるのだ。
問題は逆の時だ。
さっきからギイは同じベッドの隣に横になっていて、ぼくに背を向けて本を読んでいる。
スタンドの灯りはぼくが眩しくないようにと絞られていて、ギイの薄茶の髪を柔らかく照らしている。
そっと手を伸ばして、つんと髪を引っ張ってみる。
「ん?」
「まだ寝ないの?」
「ごめん、眩しかったか?」
そうじゃなくて、そっちじゃなくてこっち向いて欲しいだけなんだけど。
いや、向いて欲しいだけじゃなくて、ぎゅってして欲しいんだけど。
と、簡単に口にはできなくて、どうしようかと戸惑ってしまう。
ほんとに今更なんだけど。付き合い始めてもう何年だよ、っていうくらい一緒にいるのに。
ギイはぱたんと本を閉じると、サイドテーブルに置いて、もぞもぞとぼくの方へと身体を向けた。
そしてさらに近づいてきて、腕の下へとぼくの頭を引き寄せた。
「眠れないのか?」
「うん」
「んー、音程外れてもいいなら子守歌でも歌いましょうか?」
「余計に眠れなくなっちゃうよ」
くすくす笑うと、ギイもだよなーと言って笑う。
そしてちゅっと音をさせてぼくの額にキスをした。
「眠れないのは、他にしたいことがあるから?」
「・・・」
「普通に言えばいいのに。託生からのお誘いならいつでもウェルカムなんだけどなぁ」
だけど何も言わなくてもギイはちゃんと分かってくれて、ぼくのことをぎゅっと抱きしめてくれる。
もちろんぼくもギイのことを抱きしめ返す。
ギイの温もりにほっとする。
今度こそちゃんと言葉にしよう、と思う。




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あとがき

託生くんから!ってギイでなくても興奮するわ。