しろくま



「しろくま欲しいな」
唐突な一言に、思わず託生を見返した。
聞き間違いでなければ、託生はしろくまが欲しいと言った。
しろくま。北極熊だよな。
託生が欲しいと言うのなら、何としてでも手にいれてやりたいとは思うものの、あれって確か絶滅の危機にあるんじゃなかったか?
しろくまなぁ。
うーんと考えていると、託生がくるりとこっちへ向き直った。
「ギイもしろくまいる?」
「いやぁ、オレはそこまで欲しいとは思わないが」
「えっ、ほんとに?」
託生がびっくりしたように目を見開く。
いやいや、何でそんなに驚くんだ、そっちの方が驚くじゃないか。
「ギイ、好きだよね」
「別に嫌いじゃないが」
「だよね。美味しいもんね」
「は?」
「え?」
顔を見合わせて、ようやく何だかおかしいぞということに気づいた。
「託生、しろくまって・・・」
「アイスだよ」
当然だろ、と言わんばかりの託生の声色に、ようやく最近売店に入荷されたしろくまアイスが思い浮かんだ。
ああ、しろくま、ね。そういや甘いものがそれほど好きじゃない託生が、珍しく美味しいって言ってたな。
「じゃあ買いにいくか」
「うん」
「ほんもののしろくまじゃなくてよかった」
「?」
あれはさすがに売店じゃ売ってないからな。
ようやく梅雨が明け、そろそろ本格的な夏がやってくる。
今年はしろくまのお世話になる日も多そうだな、と思った。



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あとがき

本気で欲しいといったら、北極熊も手に入れるだろう、ギイ