ぷちトマトドリーム



大学から戻ると、キッチンのテーブルの上に小さな鉢植えが置いてあった。
「何、これ」
ようやく少し育ったという感じの何かの苗木っぽい。
花じゃないような気がする。
別に詳しいわけじゃないけれど、何しろ祠堂にいた頃、温室を使わせてもらう代わりに植物たちのお世話をしていたのだ。
これは花ではなくて食べ物のような気がする。
だけど、何の苗なのかまでは分からない。
「おかえり、託生、早かったな」
どうやらシャワーを浴びていたらしいギイが、濡れた髪をタオルで拭いながらやってきた。
「ギイ、これどうしたの?」
「ああ、貰ったんだよ」
「誰に?」
「商店街で買い物したら、おまけでくれた。ぷちトマトの苗だってさ」
「へぇ」
初めて見た。
ぷちトマトって案外を簡単に育てることができると聞いたことがあるけど、自分で育てようと思ったことはない。
「庭に植えるの?」
「プランターでもいいみたいだけどな。でも地植えした方が育つかもな」
「楽しみだなぁ」
「いや、それお前が育てるんだからな」
「え、貰ってきたのはギイだろ?」
「だけど託生の方が育てるの上手だろ?カリフラワーだってめっちゃ大切に育ててくれたし」
あれはギイからのサプライズプレゼントだったからだ。
思い出して思わず笑ってしまった。
「今度はぷちトマトだって分かってるからなぁ、何ができるんだろうっていう楽しみは半減だよね」
「いやいや、美味しく育てるという楽しみが」
「とか何とか言って、美味しくできたのを食べるのが楽しみなんだろ、ギイは」
「さすが託生くん、よく分かってる」
ギイはぼくの頬にキスをして、美味しく育ててくれよな、と笑った。
それはカリフラワーを押し付けた時と同じような笑顔だった。



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あとがき

ゴーヤも簡単だよ、ってギイは買ってきそう