ある朝、目が覚めると



ある朝、目が覚めると真っ裸だった。
かろうじて薄手のタオルケットが下半身にかかっていたものの、見事に真っ裸。

(え。なに?どういうこと???)

起き上がって、意味もなくキョロキョロと辺りを見渡し、もう一度裸の自分を見る。
昨夜ベッドに入った時にはちゃんとパジャマを着ていた。
確かに暑かったし、夜中に何度も目が覚めたような気もする。
だけど、パジャマを脱いだ覚えはない。
なのにどうして?
「おはよう、託生」
呆然としていると、すっかり制服に着替え終わったギイがちょうど洗面所から出てきたところで、ぼくに声をかけてきた。
ニヤニヤと笑うその顔に嫌な予感がする。
「・・・ギイ」
「うん?」
「どうして、ぼく裸なの?」
「さぁ・・・」
わざとらしく肩をすくめるギイ。その目がどうにも笑ってるようにしか見えない。
「何かした?」
「何かって?」
「まさか寝ているぼくにおかしなことしてないよね?」
慌てるぼくにギイが吹き出す。
「お前、いくら何でもそういうことされたら気づくだろ」
そうだよね。そうだよね!!!
いくら鈍いぼくでも、寝ている間にいたずらされたらさすがに目が覚める・・・だろう。
しかし、ほっとしたのも束の間、ギイはぼくに近づくと、身を屈め
「昨夜の託生は大胆だったなぁ」
と甘い声で耳元で囁いた。
そしてちゅっと頬にキスをする。
「・・・・・っ!!な、何したんだよっ、ギイっ!」
真っ赤になって怒鳴るぼくに、ギイは笑うばかりで答えない。
寝込みを襲うなんて人としてどうなんだ!と腹が立つやら、そんなことをされても目を覚まさなかった自分に驚くやら、大胆なことって一体何だよとパニックになるぼくに、ギイは笑いを堪えながら言った。
「あのな、託生」
「なに?」
「昨夜、めちゃくちゃ暑かっただろ?」
「うん」
「オレも夜中に目が覚めたんだよ。そしたら託生も暑そうにしててさ」
やっぱりギイが脱がしたのか!?
「寝付けなくて託生のこと見てたら、お前、寝ぼけながらパジャマ脱ぎだしたんだよ」
「ええっ!?」
「最初は上だけ脱いで、どうすんだろって思って見てたら、下も脱ぎだしてさ」
「・・・嘘だよね?」
「嘘ついてどうすんだよ、いやぁ、まさか深夜に託生のストリップが見れるとは思わなくて、オレ、ますます目が冴えちまったよ」
ギイはいやいや楽しかったなぁと一人ごちる。
「・・・・下着」
「は?」
「ぼく、下着も自分で脱いだの??」
恐る恐る聞いてみると、ギイはにんまりと笑った。
「それは内緒」
「・・・・っ!!!!」
自分で脱いだとしても嫌だけど、ギイが脱がしたのだとしたらもっと嫌だ。
恥ずかしがるような仲じゃないと言われても絶対やだ。
「ギイが脱がしたの?」
「だから、それは内緒」
「何でだよっ!!」
「だいたいな、別にオレが脱がしたって問題ないだろ?」
「あるよっ!!!」
「何で?」
「え?」

(何で?って聞く方がおかしくないのか?)

まったく分からないというギイの方が絶対おかしい。
いくら恋人だからって、寝てる間に下着を脱がすなんておかしいと思わないのだろうか。
「まぁ、オレと同室の時でよかったよ。お前、まさか去年も片倉の横で脱いだりしてないだろうな」
「あるわけないだろっ」
・・・たぶん。
勝手にパジャマを脱ぐなんて、今まで一度だってしたことはない・・・はずだ。
ギイはそれならいいけど、と軽く肩をすくめる。
ぼくは脱ぎ散らかされたパジャマを身につけると、もう一度ギイに聞いてみた。
「ギイ、ほんとにぼくに何もしてない?」
「・・・・・」
ギイは振り返ると胡乱な瞳でぼくを見つめていたが、いきなりぼくを抱きすくめると、そのままベッドへとダイブした。
「ちょっとギイ!!」
「お前なー。オレが昨夜どれだけ我慢したと思ってるんだ?隣のベッドでパジャマ脱ぎだす恋人を見てるだけだったオレの気持ちもちょっとは考えろよなー。おかげで寝不足気味なんだからな」
「え、え、ちょっと、だからって・・・」
せっかく身につけたパジャマを、再びギイが脱がしだす。
「まだ朝早いし、すごく頑張れば一回くらいはできるよな」
「できるわけないだろっ!!もう、ギイってば何考えてるんだよっ!!」


どうやらぼくが自分で下着まで全部脱いだというのは事実のようで、今までそんなことしたことはなかったぼくとしては、しばらく落ち込んだ。
ギイは、
「ま、オレといる時に脱ぐ分にはかまわないけど?」
と、ニヤけた顔で言った。
そのたびに襲われるのはごめんなので、その夜からパジャマはやめて、Tシャツで寝ることにした。
ギイはそれを見て、つまらなさそうに鼻を鳴らした。





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あとがき

まぁそういうことも普通にある。Tシャツだってその気になれば脱いじゃうよ、たぶん。