章三の恋人である奈美子ちゃんは最近髪を切った。 「すごくよく似合ってるね」 とぼくが言うと、奈美子ちゃんはびっくりしたように目を見開いた。 「切ったって分かる?」 「分かるよ」 「そうよね、なのに章三くんってば全然気づかないの。ひどいと思わない?」 ストローでグラスの中の氷をぐるぐると回して奈美子ちゃんが唇を尖らせる。 「ほんとは気づいてるんじゃないの?」 「ないない。今だって一度もそういうこと言われたことないもの」 そうかなぁとぼくは首をひねる。章三ほど小さな変化によく気づく人はいないと思うんだけどな。 そこへ遅れてやってきたギイと章三がぼくたちの席へとやってきた。 「お待たせ」 ぼくの隣にギイが、奈美子ちゃんの隣に章三が座る。 「赤池くん」 「何だ?」 「奈美子ちゃんが髪を切ったの、気づいてる?」 「ちょっと葉山さんっ!」 奈美子ちゃんが慌ててぼくを見る。 章三はちらりと奈美子ちゃんを見て、 「知ってるよ」 と言った。 「じゃあどうして可愛いくなったね、って言ってあげないの?」 「はぁ!?何でそんなこと言わなくちゃならないんだ」 「いや、言うだろ、普通」 ギイも呆れたように章三を見る。 「託生だってオレが髪切ったら気づいてくれるぜ」 「葉山はお前に『可愛くなったね』って言うのか?」 「言うわけないだろっ!」 ぼくが声を上げる。 「あの、ほんとに別にいいんだけど・・・」 奈美子ちゃんが小さくぼくたちを止める。 「赤池くん、あとでちゃんと感想言わなくちゃだめだよ」 「そうそう、めちゃくちゃ可愛いぞーってな」 「うるさいぞっ、ギイ!!」 「あの、ほんとにもう・・・」 いたたまれない様子の奈美子ちゃんと、つまらないことで言い合いばかりしているぼくたち。 いい歳して何だかなぁと思うけど、4人で会うといつもこんな感じで、だけどそれが楽しかったりする。 |