「ねぇギイ、アメリカには銭湯ってないんだよね」 「ないなぁ」 「じゃあギイはみんなでお風呂入ることにやっぱり抵抗あったりするの?」 託生の問いかけに、しばし考えてみる。 子供の頃から両親と共に日本へは何度も来ていたし、温泉にも行ったことがある。 その時にはもちろん何の抵抗もなく入っていた。いや、あれは家族風呂だったかな? 何しろまだ小さかったし、妹の絵利子とも一緒だったしなぁ。 「今度のスキー合宿、旅館じゃなくて良かったね」 どうやら託生は「オレは銭湯や温泉に抵抗がある」と思ったらしく、手にした旅のしおりを眺めながら良かった良かったと一人うなづいている。 「託生は?銭湯とか温泉とか、平気なのか?」 「え?ぜんぜん平気だよ。温泉大好きだし」 露天風呂とかいいよねぇ、などとにこにこ笑う。 ふうん、露天風呂ねぇ。 「じゃあ託生、今度一緒に温泉に行こうぜ、露天風呂つき」 「え、いいけど、でも男二人で温泉ってどうなんだろう」 はて、と託生が首を傾げる。 「何だよ、どうして男二人で温泉はだめなんだ?」 「だめってことはないけど、あんまり行かないんじゃないかなぁ」 「行くなら絶対に二人がいい」 「どうして?あ、どうせなら赤池くんも誘おうよ。一緒に旅行も楽しそうだよ」 「何でそこで章三が出てくるんだよ」 納得いかない。 だいたい託生はこれが恋人との旅行の誘いだって分かってるのか? 「託生、お前、オレと二人きりで旅行したいとか思わないわけ?」 「思うけど・・。でもギイ、何か企んでそうだし」 「・・・否定はしない」 「やっぱり!!」 そりゃお前、恋人と露天風呂だぞ?あれやこれやと企まないわけがない。 「やっぱりやだ」 「別にいいだろ。今までだって一緒に風呂で・・・わっ、いきなり殴るなよ!」 「ギイがおかしなこと言うからだろっ!」 真っ赤な顔で託生はそっぽを向いてしまう。 やれやれ。 これじゃあ露天風呂で・・・、なんて絶対無理だろうな。 別に恥ずかしいことでもないんだし、そろそろ慣れてくれないかなぁ。 って、自然には慣れないだろうから、やっぱり慣れさせないといけないよな。 「よし、託生、今日一緒にシャワー浴びよう」 「えっ!絶対やだ」 即答の恋人にがっくりと肩が落ちる。 ほんと、どうしてこう男心の妙が分からないヤツなんだろうな。 でもまぁ、そういうところが託生らしいんだけど。 「託生くん、絶対やだ、なんて言われて、オレが簡単に引き下がると思うなよ」 そのまま託生をぎゅっときつく抱きしめた。 笑って逃げようとする恋人に口付ける。 まずはキスから。 それは基本中の基本。 そこからゆっくりと慣れてもらうのが、恋愛の醍醐味・・だったりする。 |