消灯間際に305号室に帰って来たギイは、めずらしく疲れているように見えた。 鈍感なぼくが一目で分かるくらいに。 「どうしたの、ギイ?」 「なにが?」 「何だか疲れてるっぽいから」 ぼくが言うと、ギイは大きくため息をついて、ぼくの隣に腰をおろした。 「ちょっといろいろ揉め事があってさ」 「うん」 「久々にぐったり疲れた」 ギイはそう言うとぼくの肩に頭を乗せた。 愚痴や泣き言なんて言わないギイがこんなこと口にするということは、相当疲れてるということだ。 おまけに、 「慰めて、託生」 と、ギイが甘えた声でぼくにねだる。 慰めてといわれても、いったいどうすればいいかさっぱり分からない。 ぼくは少し考えたあと、ギイへと両手を伸ばしてぎゅっと彼を抱き寄せ、ふわふわの髪を何度か撫でた あと、 「よしよし」 と言ってみた。 とたんにギイが盛大に吹き出した。 「な、何だよ、ギイっ!」 「だって、託生、よしよしって!オレ、そんなこと言われたの生まれて初めてだ」 大笑いしてベッドに突っ伏すギイを、ぼくは憮然と睨みつける。 「そんなに笑うことないだろっ!」 「ごめん、だって・・」 ギイはくすくすと笑い続ける。 「もう絶対に慰めてなんてあげない」 そっぽを向いたぼくをギイが背中から抱きしめる。 「ごめん、もっと慰めて、託生くん」 「絶対やだ」 「だからごめんって」 「笑ってるくせに!!」 それからしばらくの間、ことあるごとに「託生、よしよしして」と言って、ギイはぼくをからかうのだった。 |