「誕生日おめでとう、託生」 「それ、もう何回目だよ、ギイ」 くすくすと笑うのは、託生がほろ酔い加減だからに他ならない。 さっきから何度もおめでとう、と言うギイだって、いつになくいい気分に酔っている。 ギイが予約していたレストランはシックで上品で、託生が好きなクラシックがかかっていて、出される食事はどれもため息が出るほど美味しくて。 口にしたワインも絶品で、結局2人で2本を飲み干してしまった。 足元がおぼつかない託生を抱えるようにして、ギイが部屋を扉を開けた。 くにゃくにゃになった託生をベッドへと放り投げて、その上から覆いかぶさる。 「ん・・・っ」 重ねた唇の隙間から漏れる吐息までワインの香りがして、その香りにまた酔ってしまいそうになる。 何度も甘いキスを繰り返すギイに、託生は、んーっと気だるく身を捩った。 「・・・眠い」 「確かにな」 ひとしきりの口付けのあと、ギイもごろりと託生の隣に寝転んだ。 「託生、本当に欲しいものなかったのか?」 「ほんとにないよ」 誕生日だから何でも欲しいものプレゼントすると言うギイに、託生は笑って首を横に振った。 今のところ特別欲しいものはないから、とツレない恋人に、ギイは不満たっぷりだったが、欲しいものができたらちゃんと言うから、と言われてやむなく引き下がった。 その代わり、ディナーはご馳走させてくれと半ば無理矢理約束をさせた。 もちろん託生も、ギイが誕生日を祝ってくれるのは嬉しいのだから断るはずもなく、久しぶりに2人きりでゆったりとした時間を楽しんだ。 「何でもいいのに・・・」 つぶやいたギイに、託生はむくりと起き上がった。 「じゃあさ、ギイ」 「うん?」 睡魔に襲われつつあるギイが生返事を返す。 「ギイのこと抱きたいな」 「うん・・・んっ??」 思いもしなかった台詞に、ギイは一気に酔いが覚めた。 託生の台詞の意味を理解しようとしても、酔いの回った頭が上手く働かない。 あれこれ考えている間に、託生がよっこらしょとギイの腰の上に跨る。 「おい、託生」 どこか眠そうな目をして、託生がギイのシャツのボタンを外していく。 「おいおい、託生」 ズボンからシャツの裾を引きずり出し、ベルトを外す。 「・・・・・マジか?」 上半身を剥かれたギイは、困ったなーと思いながらも、自分の首筋に唇を寄せる託生のことを突き放せるわけもなく、されるがままになっていた。 するりと素肌を辿る指先が気持ちよく、酔いの力も相まって、 (託生がしたいならまぁいいか) という気にさえなってくる。 「ギイ」 「うん?」 「好き」 「・・・うん」 「あのさ、本気で言ってるんだよ?」 「知ってるよ。託生はオレのことが好きなんだよな」 「好きじゃなくて、大好きなんだよ」 託生は言って、けれどすぐに不思議そうに首を傾げる。 「違うな・・大好きなんじゃなくて・・・愛してるんだった」 うんうん、と託生が幸せそうに笑う。 そしてふわりとギイの唇にキスをすると、そのままスイッチの切れた人形のように脱力し、ギイの首筋に顔を埋めたまま、すーすーと寝息を立て始めた。 「・・・何だよ、オレのこと抱くんじゃなかったのかよ」 しょうがないな、とギイは託生をベッドに横たえ、自分のまたそばに寄り添って目を閉じる。 中途半端に煽られた責任はあとできっちり取ってもらおう。 もちろん上を譲るつもりは毛頭ない。 ギイは力の抜けた託生の身体を抱き寄せて、耳元で囁いた。 「誕生日おめでとう、託生」 |