その日の夜の食堂メニューは手巻き寿司だった。 手巻き寿司きも祠堂初の試みらしい。 4人一組でテーブルにつき、自分たちで好き勝手に手巻き寿司を作るというものだ。 食堂のおばちゃんたちにしてみれば、寿司ネタだけ提供すればいいわけだが・・・ 「けっこう準備も大変だろうなぁ」 ギイがうーんと腕を組む。 「だから初めての試みなんだろ。好評なら一月に1回くらい手巻き寿司の日を作るらしいぜ」 ぱりっとした海苔に章三が新鮮な刺身を乗せていく。 今回は手巻き寿司なのだから、自分のものは自分で作る。 これならギイと章三が争う姿を見ることはないだろう、とほっとしながら、自分のための手巻き寿司を作っていた託生だが、 「ちょっと待て託生」 と、いきなり隣のギイに待ったをかけられる。 「お前、卵焼きとカニ身スティックを一緒に乗せるって何なんだ」 「何って、美味しいけど」 「寿司といえば魚だろうが」 「肉食人種のアメリカ人がそれを言うのか」 章三がすかさず突っ込みを入れると、人種差別だ!とギイが文句を言う。 とは言うものの、先ほどから託生が食べているのはキュウリだったり卵焼きだったり、御新香だったり、まるで子供が食べるようなネタばかりなのだ。 「魚を食え、葉山」 「そうだぞ、託生、ちゃんと食べなきゃな」 利久までもがうんうんとうなづく。 「葉山、寿司の醍醐味というのは新鮮な魚を食べることだろう、だいたいお前は・・・」 章三がしょうがないなと言わんばかりに、託生の皿に刺身を乗せる。 3人からあーだこーだと文句を言われ、託生はやれやれと肩を落とした。 (神様、いや食堂のおばちゃん、もうテーブルで作るご飯はやめてください) とにかく心安らかに夕食を食べたい、と切に願う託生であった。 |