言えないこと


映画のあと、奈美と2人で裏通りのカフェに入った。
久しぶりに地元に帰ってくると、いつも少しづつ様子が変わっている。
それまであった店がなくなったり、その逆だったり。
このカフェもつい最近できたばかりだそうで、一度来てみたかったのだと奈美は言った。
「章三くん、何にする?」
「僕はコーヒー。奈美はパフェだろ?」
「ダイエット中なんで、アイスティにする」
「ダイエット?女の子は大変だなぁ」
特に太ったとも思えないけどな、と僕は首を傾げる。
ウェイトレスに注文をすませると、奈美は学校での出来事をあれこれと話してくれた。
主に僕も知っている同級生の話題を中心に。
「章三くんは学校で何か楽しいことあった?」
「楽しいことか」
ギイが葉山にやったカリフラワーがなくなって大騒ぎになった、とか、文化祭でギイと葉山がつまらないことで喧嘩したとか。
何だ、どれもこれもあの2人がらみじゃないか。
そしてどれも奈美には言えない。言えば、あの2人の関係を話さなくてはならなくなる。
奈美はギイのことも知ってるし、僕までそうだと思われるのはまっぴらごめんだ。
「特にこれといっては・・・」
「え、章三くん、もしかして学校楽しくない、とか?」
「そうじゃなくて、いろいろと、何ていうか・・・」
まさかあの2人が付き合ってるのに巻き込まれてるとは言えない。
「変なの」
「まったくだ」
あの2人のせいで、僕の学校生活が楽しくないものだと誤解されるなんて!
いっそバラしてやろうかと思い、いやいやと思いなおす。
「今度崎さんに会った時に、章三くんの学校生活の様子を聞かなくちゃ」
何も知らない奈美は無邪気に笑う。
もう絶対にギイと奈美は会わすまいと思ったが、どういう運命のいたずらか葉山まで紹介することになろうとは、このときの僕は思ってもみなかった。



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あとがき

普通にデートしてるんだろうな。幼馴染ってそういうもんだ。