写真


「見てください、葉山さん」
じゃーんと真行寺が目の前に差し出したもの。
「写真?」
「はい、超レアものです」
見ると確かにそれはレアものだ。
「三洲くんの写真なんてよく手に入ったね」
「苦労したっす。写真部の連中に吹っかけられて、小遣い飛びました」
「はは、でも隠し撮りにしてはよく撮れてるね」
「葉山さんはギイ先輩の写真って持ってるんですか?」
「写真かー、持ってないなぁ」
「欲しくないンすか?」
「え?あーっと、そうだね。でもギイは写真嫌いだからなぁ」

そんな話をした翌日、珍しくギイが270号室にやってきた。
「あれ、どうしたの?」
「お前なー、真行寺に言わずにオレに言えよ」
「?」
「オレの写真が欲しいんだって?」
ぼくがギイの写真を欲しがっているにも関わらず、ギイがくれないという風に、ギイは真行寺から聞いたらしい。
「託生が可哀想だって、真行寺に責められたんだぞ」
「え、そんなこと言ってないんだけどな・・・」
「言ってなくても欲しかったんだろ?」
問われて考える。欲しくないわけじゃないけど・・・。
「写真はいらないよ」
ぼくが言うと、ギイは目を見開いた。
「写真やるから会えなくても我慢しろって言われるくらいなら、写真はいらない」
「託生・・・」
ギイはそっとぼくの肩に手を置くと、ふわりと頬に口づけた。
「物分かりいい恋人ってのも寂しい気がするなぁ」
「なにそれ」
ぼくは思わず吹き出した。
「ねぇギイ、ぼくはぜんぜん物分かりなんてよくないよ?写真の代わりに、毎日会える方がいいって思ってるくらいなんだから」
「そっか」
そうだよな、と嬉しそうにギイが笑う。
「この一年寂しくさせた分は、必ずどこかで埋め合わせするからな」
「うん」
「約束、な」
「うん」
指きりの代わりに甘い口づけを一つ。
唇が離れ、ぼくは間近にあるギイの顔を見つめた。写真なんていらない。
ちゃんとこうして覚えていられる。



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あとがき

託生くんは写真なんて欲しがらないだろうな。男前。