ポルポロン



この休日、お父さんの仕事の手伝いだと言って寮を離れていたギイが、お土産といってぼくに小さな箱をくれた。
開けると、中には角砂糖のようなお菓子が入っていた。
「クッキー?」
「ポルボロンっていうスペインのお菓子。口に入れてくずれる前に、ポルボロンって3回唱えることができたら幸せになれるんだってさ」
「へぇ、可愛い名前のお菓子だね」
「食べてみろよ」
む、これはぼくにちゃんと言えるかどうか試したいんだな。
はいどうぞ、とギイがコーヒーを差し出してくれる。
ぼくはそれを受け取り、おもむろにお菓子をひとつ摘み上げると、ぽいっと口の中に入れた。
「ポルボロンポルボロンボルボロン」
言えた!と思ったのに、
「お前、最後ポルボロンて言っただろ」
ギイが鋭く指摘する。
「言ってない」
・・・と思う。
「いや、言った」
「別にいいだろ、一つくらい間違えても」
「いやいや、だめだろ」
ギイが苦笑して、自分もポルボロンを一つ口にいれた。
そして何も言うことなく食べ終える。
「ギイ、言ってないじゃないか」
「オレ、ちゃんと心の中で唱えたから」
「えー、ずるいよっ」
「ずるくなーい」
ほら、とギイがもう一つ、とぼくの口にポルボロンを放り込む。
今度はギイを倣って心の中で三回唱える。
「幸せになれそう?」
「・・・」
もぐもぐしているぼくが無言のままうなづくと、ギイはぼくの肩を引き寄せて、
「それは良かった」
と、ちゅっとその頬に口づけた。



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あとがき

託生くんは早口言葉は無理っぽい。いや、お菓子の名前だけどさ。