「あれ、ギイどこいっちゃんだろ」 さっきまでそこにいたのに、ギイの姿がない。 つやつやとした白い毛並みのギイは、どこか気品があって人に媚びたり懐いたりすることがない。 好き勝手外へ遊びに行っても、時間になればちゃんと託生の元へと帰ってくる。 託生がいる時は、決してそのそばを離れようとしない猫だった。 「ギイ?おかしいな、あ、もう時間だ行かなくちゃ」 託生は鞄を肩にかけて、玄関の鍵を手にした。 扉を閉めて、さて大学へ向かおうと思った時、肩にかけた鞄がやけに重いことに気がついた。 嫌な予感がして鞄の中を見てみると、そこにはギイがちんまりと納まっていた。 「ギイ、こんなところに!」 道理で鞄が重たいわけだ。 「だめだよギイ、大人しく留守番しててよ」 「にゃー」 つんとそっぽを向くギイに、託生はやれやれとため息をつく。 ここで押し問答していてもどうせギイは聞きやしないだろう。 腹をくくって、託生は鞄の中にギイを入れたまま学校へと急いだ。 「託生が猫を飼ってるというよりは、猫が託生を飼ってるみたいだな」 と学校の友達たちには笑われた。 ギイは知らん顔で託生の膝の上で気持ち良さそうに伸びをした。 |