猫飼ってみました 2


かりかりと扉を引っかく音の方へと、ギイは視線を向けた。
綺麗な黒毛の猫がギイの気配を感じて振り返る。
「こら、タクミ、外へ出るなよ」
ギイは片手でひょいとタクミを掬い上げると、その愛らしい顔に唇を寄せた。
大人しくされるがままのタクミだったが、あまりにしつこくキスをされるので、さすがに「にゃー」と前足をばたつかせた。
他人にはいつも警戒心を持って、簡単に近づくことなどないけれど、ギイに対しては驚くほど従順で、けれど自分から甘えてくることは滅多にない。
そのくせ少し距離を置くと、いつの間にか膝の上に乗っていたりする。
「タクミ、そろそろ風呂入るか?」
「!」
言ったとたん、タクミはギイに猫キックをかましてその手から逃げてしまった。
そして距離を開けて様子を伺う。その姿にまた笑いが込み上がる。
「分かったよ。じゃあ風呂はなし。だから戻っておいで」
しゃがみこんで、手を差し伸べる。
タクミはちょっと考えたあと、素直にギイに擦り寄り、喉を鳴らした。
猫を飼うと結婚が遠のくなどと世間では言われているようだが、なるほどそれもうなづけると、ギイは苦笑する。
「愛してるよ、タクミ」
くるりと頭を撫でると、タクミは嬉しそうに目を閉じた。




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あとがき

猫になってまでギイにまとわりつかれる託生。不憫。