かりかりと扉を引っかく音の方へと、ギイは視線を向けた。 綺麗な黒毛の猫がギイの気配を感じて振り返る。 「こら、タクミ、外へ出るなよ」 ギイは片手でひょいとタクミを掬い上げると、その愛らしい顔に唇を寄せた。 大人しくされるがままのタクミだったが、あまりにしつこくキスをされるので、さすがに「にゃー」と前足をばたつかせた。 他人にはいつも警戒心を持って、簡単に近づくことなどないけれど、ギイに対しては驚くほど従順で、けれど自分から甘えてくることは滅多にない。 そのくせ少し距離を置くと、いつの間にか膝の上に乗っていたりする。 「タクミ、そろそろ風呂入るか?」 「!」 言ったとたん、タクミはギイに猫キックをかましてその手から逃げてしまった。 そして距離を開けて様子を伺う。その姿にまた笑いが込み上がる。 「分かったよ。じゃあ風呂はなし。だから戻っておいで」 しゃがみこんで、手を差し伸べる。 タクミはちょっと考えたあと、素直にギイに擦り寄り、喉を鳴らした。 猫を飼うと結婚が遠のくなどと世間では言われているようだが、なるほどそれもうなづけると、ギイは苦笑する。 「愛してるよ、タクミ」 くるりと頭を撫でると、タクミは嬉しそうに目を閉じた。 |