「馬鹿だろ?」 どうしても一人でいると落ち込んでしまいそうなので、ギイは章三を呼び出して近所の居酒屋で飲んでいた。 コトの顛末を聞いた章三は、一刀両断に切り捨てた。 「どうして猫ごときで喧嘩にまで発展するのか、僕には理解できないね」 「猫ごときだとー。オレのタクミのことを襲おうとしたんだぞ、黙ってられないだろ」 「黙っておけよ」 「タクミがいじめられるのを黙ってみてられるか!」 すでに酔っ払い状態のギイに、章三は舌打ちする。 高校時代からギイと託生の良き相談役、いや、単なる愚痴と惚気の聞き役として、章三はことあるごとに二人の痴話喧嘩を見てきたが、今回のはその中で一番馬鹿馬鹿しいものだと思った。 「それにしても葉山のとこのぎいは、まんまお前じゃないか」 「何がだよ」 「タクミに飛びかかったんだろ?そりゃいじめたいわけじゃなくて、好きだからじゃないのか?」 「は?」 「お前さんが葉山に一目惚れして、有無を言わさず自分のものにしたのとそっくりじゃないか」 「オレはいきなり襲ったりしてないぞ。ちゃんと手順を踏んでだな・・・」 「そういう生々しい話はしなくていい」 章三は心底げんなりしたように手を振った。 「ぎいはタクミに一目惚れしたんだろ。で、仲良くなりたくて飛びかかった、と」 「好きなら好きで手順を踏め!」 「お前が言うな」 ギイは、あんな猫にうちのタクミはやれんーと、すっかり猫馬鹿っぷりを発揮して、その夜はぐだぐだになるまで飲み明かした。 酔いつぶれたギイを連れて帰る途中、夜遅くにごめんと託生からメールが入った。 「おいおい、今度は葉山かよ」 明日会いたいんだけど、との託生の誘いに、章三はどうせならまとめて会えば一度で済んだものを、と忌々しげに、 「了解」 と返信をした。 |