綺麗な黒い毛並みをした、まだ小さな猫だった。 黒い瞳が警戒心丸出してこっちを見ている。どう考えてもこっちの方が強いのは歴然としていて、本気を出したら一撃で落とせる自信がある。 けど、もちろんそんなことはしない。 愛する託生にお願いされていることもあるけれど、そんなことが理由だからじゃない。 初めて会った時、つい本能のままに飛びかかってしまい怖がらせてしまったけれど、今度はしくじるまいと思っていた。 じりっと間合いを詰めると、同じだけ相手も後ずさる。 怯えた目をしているくせに、だけど逃げようともしない強気なところも気に入った。 もう決めていた。 理由なんてない。ただ欲しいと思った。 本能なのか、それとも恋に落ちたのか。 どっちもさほどの違いはない。 ** 綺麗な白い毛並みをした、美しい猫だった。 薄茶の瞳は自信に満ちていて、何かを試すようにこちらを見ている。 初めて会った時、思わずその美しさに見惚れて、飛びかかられたのを避けるのが一瞬遅れた。 寸でのところでギイによじ登り、相手は託生に取り押さえられた。 もう二度と会うことはないと思っていたのに、どういうわけか、部屋に二人きりにされてしまった。 怖かった。 けれどそれは、自分よりも格上のものに対する畏怖というよりは、何かが変わる予感に他ならない。 じりじりと間合いと詰めようとする相手をじっと睨むしかできない。 どうせ逃げられないことは分かっていた。 近寄られて、身を竦ませると、ぺろりと頬を舐められた。 いい匂いがして顔を上げると、薄茶の目が自分を見ていた。 何故だか怖いという気持ちはなくなっていた。 |