温室にて


とある放課後、温室の水まき手伝ってやるよ、とギイと章三が申し出てきた。
珍しいこともあるもんだ、なんて思っていたのだけれど、本当の目的はそれではなく。
「ちょっと、2人とも何考えてるんだよっ!!」
水まきとなれば、当然ホースと水が登場するわけで、ギイと章三はこれ幸いとばかりに互いに水のかけ合いをしてはわーわーと楽しそうに騒ぎ始めたのだ。
今どきの小学生でもそんなことはしない・・・はずだ。
「託生も来いよ。冷たくて気持ちいいぞ」
「わっ、水かけるなよっ!!ちょっと、ギイっ!!!」
「葉山、このくそ暑い中、どうせ水やりするなら一緒に濡れた方が涼しくなる」
いつも真面目な章三までもがぼくに水をかけてくる。
この2人、あまりの暑さに辟易して、何とか涼を取りたいとばかりに温室の水まきに目をつけたらしい。
「やめろって!!もう・・・っ、頭にきた」
びしゃびしゃと水をかけられるばかりでは面白くない。
ぼくは目についたホースを手にすると思い切り蛇口を捻った。
勢いよくあふれ出す冷たい水を、容赦なくギイと章三に向ける。
逃げる2人に狙いを定めて水をかけると、2人もまたぼくに水を浴びせかける。
さんざんはしゃいで全身ずぶ濡れになって、そりゃまぁ楽しかったのは楽しかったけれど、
「どうしよう」
髪もぐっしょりで、シャツも肌にべったりで、こんな状態で寮へは戻れない。
するとギイと章三は全く慌てる様子もなく、持ってきていた袋の中から着替えを取り出した。
「え、何それっ!!ずるいよ!!」
目の前で乾いたTシャツに着替えようとする2人にぼくは唖然とする。
「ずるくないって。オレたち最初から水遊びするつもりだったからさ、そりゃ着替えだって持ってくるだろ」
「ぼくにも水かけたくせに!!」
絶対ぼくも巻き添えにするつもりだったはずだ。それくらいぼくだって分かる。
けらけらと笑うギイの手からTシャツを奪い取り、ぼくは濡れたシャツを脱いで頭からそれを被った。
着替えを奪われてちょっとは困ればいいと思っていたのだが、ギイはまったく気にした様子もなく、いきなり濡れたシャツのままぼくに抱きついてきた。
「何だよっ、また濡れちゃうだろっ」
「こんなに暑いんだ。寮に戻るまでに乾くって」
「もうっ、付き合いきれないよ!」
結局ぼくとギイは濡れたシャツのまま、じりじりと照りつける太陽の下を歩いた。
ギイの言う通り、シャツはあっという間に乾いた。

その日は連日の最高気温を更新したとニュースで言っていた。



Back

あとがき

たまには高校生らしく。