1. 「マグカップとか、パジャマとかは?」 「うーん」 「財布とか時計とか」 「あー、そうだねー」 何を思ったのか、ギイはペアグッズを持ちたいと言って、駄々っ子のようにさっきから隣であれこれと提案していた。 「シャツとか靴とかネクタイとか?」 「それじゃ、漫才師みたいだよ」 (もう寝たい) ベッドで並んで横になって、さぁあとは寝るだけ、となっていたのにどうしてここへきてそんなこと言うのかなぁ、ギイは。ペアグッズ持ちたいなんて、女の子じゃないんだからさー。 「託生、何か一つくらいお揃いのもの持とうぜ」 「んー、何のために?」 「好きな人と同じもの持ってるってのがいいんだろ?理由なんてない」 「んー、でも、誰かに見られたら恥ずかしいしなぁ」 (ああ、眠い) ぼくはもう半分あっちの世界に意識が飛んでいっている。 「じゃあ何ならいいんだよ、託生?」 「んー、っと、人に見られないもの、ならいいかな」 「よし、じゃオレに任せろ」 「はいはい」 もう次の瞬間には、ぼくは夢の世界へ旅立っていた。 そして数日後。 ギイがペアグッズとして用意したのは、お揃いの下着だった。 色違いでも柄違いでもなく、本当に同じ下着。 「これならいいだろ?」 「・・・確かに人目には触れないけど、これ、まったく同じだよね?」 「もちろん」 「ギイ、洗濯したあとに、どっちがどっちのか分からなくなるよ。しょうがない。名前書いておこうかな」 と言ったぼくに、ギイは何故だか脱力していた。 1.「ペアグッズ」 2. 行ってらっしゃいのキスとか。 おかえりなさいのキスとか。 そういうことは普通のことだと思うのだが、アラタさんはまったくそういうことに興味がない。 恥ずかしいのかな?? でももう付き合い始めてけっこう経つし、キス以上のことだっていっぱいしてるし、一緒に暮らしているというのに!? 「行ってくる」 スーツ姿のアラタさんは本当にカッコよくて、思わず見惚れてしまう。 昔っから綺麗な人だったけど、今はカッコいいなぁって思う。 素直にそれを口にすると、いつも怪訝な顔をされるんだけど。 「待って、アラタさん!」 「どうした?」 今にも扉を開けようとしていたアラタさんが手を止めて振り返る。 洗い物をして濡れた手が触れないように気をつけて、アラタさんにキスをした。 「行ってらっしゃい」 「・・・・・お前な」 うんざりしたようにアラタさんがため息をつく。 「くだらないことでいちいち呼び止めるな」 「くだらなくなんかないよ!行ってらっしゃいのキスは大事だって。だいたいアラタさんはキスが足りないよ。スキンシップは大事だろ?こういうちょっとしたことのすれ違いで、ダメになるカップルって多いんだよー」 切々と訴えると、アラタさんはむっとした表情で俺のシャツの胸元を掴み、噛み付くようにキスをして、無言のまま出て行った。 「嬉しいけど、もうちょっと甘いキスでもいいんじゃないの?」 あれは絶対に怒ってる。 でもちゃんとキスしていくあたりアラタさんらしい。 たぶんキスするのは嫌じゃないから。 付き合い始めてもう10年。 一緒に暮らし始めてもう5年。 「さて、機嫌直してもらえるように、今日の晩御飯はアラタさんの好きなメニューっと」 そろそろ俺もアラタさんの考えていることが読めるようになってきた。 2.「キスが足りない」 3. シャワーを浴びて浴室を出る。ふわふわのタオルで身体を拭いて、さてパジャマ、と思った時に、間違いに気づいた。 「しまった、これギイのだった」 少し前からペアグッズに拘っているギイが用意したのがこのお揃いのパジャマで、色も柄も同じなのでうっかりとこれを持ってきてしまったらしい。 「しょうがない、ちょっと借りよう」 今日はこれを借りて、ギイには違うパジャマを着てもらおう。 お揃いと言っても、もちろんサイズは違う。 シャツの袖も長いし、パンツの裾だって長い。 「まったく嫌になるなー」 体格差を見せ付けられたようで面白くない。 パジャマなので、さして気にすることなく袖口と裾を折り返して、タオルを片手に寝室へと戻った。 すでにベッドに横になっていたギイがぼくの格好を見て、おや、というように目を見開いた。 「ごめん、間違えて持っていった。今日は違うの着てくれる?」 「それはいいけど、何だ、その可愛いカッコ。お前、誘ってる?」 ギイは手にしていた雑誌を放り投げると、ぼくの手を強く引いた。 「可愛くなんてありません。カッコ悪いよ」 「いや、可愛い。くそー、何で大きなシャツって興奮するのかなー」 ギイがぼくのお腹のあたりにぎゅうぎゅうと顔を埋める。 「ちょ、もーギイってば!馬鹿なこと言ってないでシャワー浴びてきなよっ!」 今にも襲われそうになりながらも、ぼくはギイをベッドから追い出した。 ぶつぶつ文句を言いながらも、ギイは 「このあと絶対にするからな」 と言い残して浴室に入っていった。 「可愛いは男に対する褒め言葉じゃないって何回言ったら分かるんだろう」 とにかく、今日はもう疲れててそんなことをする気分じゃないので、ギイがシャワーから戻ってくる前に寝てしまおう、とぼくはシーツにくるまって目を閉じた。 3秒で熟睡。 もちろん翌朝、ギイからさんざん文句を言われた。 3.「ぶかぶかのシャツ」 4. 1日1回の電話なんてまだ可愛い方だ。 会えない時間が長くなると、次はメール攻撃が始まる。 1時間に1通とまではひどくないけど、気がつくと着信マークが光っている。 返信しないで放置してると、さらに「何かあったか?」なんてメールがくる。 「ギイ、ほんとにちゃんと仕事してる?」 帰宅したギイに聞いてみると、してるしてると笑う。 「ちゃんと仕事してる人が、どうしてあんなしょっちゅうメールできるんだよ!」 「あのな、オレにだって休み時間はあるんだぞ」 「だけどねー。なーんか怪しいんだよなー。今度島岡さんに聞いてみようかな」 どうでもいいメールばっかりしてる社長なんて聞いたことないよ。 「そんなことより託生、オレ、明日休み。デートしようぜ」 「・・・あのさ、一緒に住んでるのに今さらデート?」 「見たいって言ってた映画見て、そのあと美味い飯食って、夜景見て・・」 「・・・・」 「たまに雰囲気変えてリッチなホテルにでも泊まろう。あ、じゃあ飯もホテルがいいかな」 「あのね、ギイ」 ぼくはやれやれと肩を落とす。 「デートなんてしなくていいよ。ずっと休みなしで働いてるんだし、たまの休みなら、家でゆっくりしなよ」 「あー。家で一日託生といちゃいちゃしてるってのもいいな」 「だからさー」 「せっかくの休みなんだから、普段取れてないコミュニケーションを取りたいんだって」 「取れてない!?」 どこが!!!! 電話とかメールとか!あれだけやってるんだから十分取れてるよ! むしろ過剰! と、いくら訴えたところで、ギイには通じやしないってことは長い付き合いで分かってる。 「わかった。明日の休日はギイの好きなことしよう。外でデートでも家でまったりでもいいよ。たまの休みだもんね」 そう言うと、ギイは満面の笑みでぼくの頬にキスをした。 たぶん死ぬまでこういう感じなんだろうなーと思うと、困ったなと思う反面、やっぱりちょっと嬉しいかも、なんて思ってしまうあたり、ギイのことが好きでしょうがないんだなぁと自分で照れてしまったりするのだ。 4.「コミュニケーション過剰」 5. 「別に行きたくないなんて言ってないでしょ!」 「じゃあ延期しようかなんて言うなよ」 「章三くんだって本当はどっちでもいいって思ってるくせに!」 「誰もそんなことは言ってない」 どこまでも落ち着き払っている章三くんに、だんだん腹が立ってきた。 喧嘩の原因は新婚旅行をどうするか、だった。 ここのところ章三くんの仕事はすごく忙しいみたいで、なかなか会えない日が続いていた。そんな中、結婚式やら新居のことやら、いろいろと決めないといけないことも多くて、章三くんはちゃんと相談に乗ってくれるんだけど、疲れてるだろうなって思うと、何だか見ていて気の毒になってきたのだ。 だから、つい 「旅行、延期にしようか」 と言ってしまった。 でも、章三くんはそれが気に入らなかったらしい。 別に行きたくないわけじゃない。すごく楽しみにしてる。けど、章三くんがしんどそうにしてるのを見るのはこっちが辛くなってくるから。なのに。 「もういいっ、章三くんなんて知らないっ!」 「奈美」 「何よ、もういいってば」 これじゃ駄々っ子だって自分でも思った。そしたらふいに涙が溢れた。 「なーみー」 背中を向けると、章三くんはやれやれと言った風に、私の髪をくしゃりと撫でた。 「僕だって旅行は楽しみにしてるんだから、延期しようなんて言うなよ」 「だって」 「仕事が忙しいのはゆっくり休みを取るだめだから、奈美が気にすることはないんだ。仕事を理由に奈美にいろいろ任せっぱなしにしてるのは悪いと思ってるよ、ごめんな」 章三くんの言葉に私は振り向くことなく、うなづいた。 「泣くなよ」 「だって・・・」 そんな風に全部分かってるって顔して、ちっとも怒ったりしないから。 私はどんどん我侭になってしまうような気がする。 「決めなきゃいけないこと、リストアップしてくれたんだろ?あとで ちゃんと決めとくからさ。とりあえず飯食わせてくれ」 気の抜けた言葉に、思わず笑ってしまった。 下手すれば大喧嘩になってしまいそうなことでも、他愛もない痴話喧嘩にしてくれているのはきっと章三くんが一歩引いてくれてるから。 私の我侭を本気で相手にしない余裕がやっぱりちょっと悔しいけど、そういうところが好きだなって思ってしまうのだ。 「章三くん、旅行、行きたいとこあるんだ」 「どこ?」 「あのね・・・」 結婚式まであと3ヶ月。 5.「痴話喧嘩」 6. ギイがこっそりと部屋に隠し持っている電気調理器を借りにきたのは4階の階段長の吉沢だった。 「めずらしいな、どうしたんだ?」 校則違反の調理器をわざわざ借りに来るなんて、いったい何ごとだ、とギイは茶化した。吉沢はゼロ番に入ると、照れたように頭をかいた。 「あ、うん。ホットミルクを作りたいんだけど」 「そりゃかまわないけどな。吉沢が飲むのか?」 机の下から調理器を取り出してセットする。小さな鍋も忘れずに。 「高林くんが風邪っぽいから、何か温かいもの飲ませてあげようかと思って」 「風邪流行ってるなぁ」 吉沢が持参したミルクを鍋に注ぎ、温まるのを待つ。 「特別に砂糖を提供するよ、甘い方がいいだろ?」 ギイが小さな包みを吉沢へと差し出す。 「ありがとう。すごいな、ギイは何でも持ってるんだな」 「何でもっていうか、まぁ必要に迫られてってところかな。疲れてる時は甘いもの欲しいみたいだからさ」 「誰が・・・って、ああ、そっか」 すべて言わなくても、聡い吉沢はギイが誰のためにいろんなものを揃えているのかに気づいた。 自分のためなら、こんな校則違反までしない。 大切な人が喜ぶなら、とついつい思ってしまう。 「高林にお大事にって伝えてくれ」 「うん、ありがとう、ギイ」 吉沢は律儀に礼を言ってゼロ番をあとにした。 6.「ホットミルク」 7. 逃げようとする腰を引き寄せた。 「ギイ、待って・・・っ」 「だめ」 汗ばんだ肌に舌を這わせると、託生はくっと息を飲んだ。 今すぐにでも突き上げたい衝動をやっとの思いで堪えていた。 伸ばした足の上に跨り、身体の奥深くにオレの熱を銜えこんで、託生は動くこともできずに胸を喘がせている。 「託生、動いていい?」 「まだ・・待って・・・」 痛みのせいではなく、感じすぎて辛いのか、託生はオレの肩に額を押し付けた。 「ギイ、今日、いつもと何か違う・・」 「なにが?」 「分かんないけど・・・んっ・・・」 「久しぶりだから興奮してるのかな」 耳元で囁くと、託生はふるふると頭を振った。 首筋にちゅっと吸い付くと、託生は火照った頬のまま顔を上げた。 「一つになってるって感じがする?」 「・・・っ」 「もうちょっと奥まで入れていい?」 「ん・・・」 うなづいて、けれど恥ずかしさからか、託生は目を閉じた。 その頬に流れた涙を舐めとって、ゆっくりと律動を始めてみる。 耳元で聞こえる託生の声や、息遣い、触れ合った肌の温もり。 繋がった部分からとろとろに溶けてしまいそうな気がした。 何度しても足りなくて、もっともっとと思ってしまう。 「ギイ・・っ」 どこか切羽詰った声に煽られた。 好きだよと囁くと、託生は目を開けて、そして嬉しそうに笑った。 ああ、どうしよう。 めちゃくちゃに泣かせてみたくなる。 7.「涙を舐める」 8. ぺったりと隣にくっついて離れようとしない。 いつもなら嬉しいところなのだが。 「ほら、もうこれで終わりにしろ」 「やだ」 きっぱりと言って託生は取り上げようとしたグラスを取り返した。 口当たりのいいワインを飲み始めたら止まらなくなり、託生はぐだぐだに酔っ払ってしまった。 珍しいこともあるものだ。 「ギイー、もっとちょーだい」 「だめだって、お前もう前後不覚だろ?」 「そんなことない。もー、自分ばっか飲もうと思ってるんだろ!この食欲魔人がー」 「はいはい、あ、こら、ボトルから飲むんじゃないっ」 「けちー」 ワインボトルとグラスを取り上げ、ようやく託生も諦めたのかソファにもたれて 代わりに渡した水をちびちびと飲み始めた。 「ギイ、こっちきてよ」 「ん?」 「こっちきて、ぎゅうってして?」 ほらほらと託生が両手を広げる。 滅多にそういう可愛いおねだりしないというのに、酔っ払うと平気でそういうこと言うんだな、こいつは。 どうせなら素面で言ってくれればもっといいのなぁ。 誘われるがまま隣に座ると、託生はオレの膝に乗り上げて、ぎゅうぎゅうと抱きついてきた。 もちろんおねだりされたので、ぎゅうっと抱きしめ返す。 ちゅっと唇にひとつキスをすると、託生はとろんとした目でオレを覗き込んだ。 「好きって言って、ギイ」 「好きだよ」 「どれくらい?」 「世界で一番」 「そんな当たり前の答えじゃつまんないよー」 託生がばしばしとオレの胸を叩く。当たり前ってなー。 「どれくらい好きかちゃんと言えよー!」 「あー」 そんなこと言われてもなぁ。どうせ何言っても満足しないくせに。 それにしても恐るべし酔っ払い。 どうせ明日になったら全部忘れちまってるんだろうなぁ。 あーあ。 どうせならオレも酔っ払ってしまいたい。 8.「ぎゅうってして」 9. 3時のおやつの時間になったので、二人を呼びに子供部屋に行ってみた。 ずいぶん静かだなと思いながら扉を開けると、さっきまで元気にはしゃいでいた子がぐっすりと眠り込んでいた。傍らで、託生さんが添い寝をしている。 「静かなはずね」 きっと遊び疲れて眠ってしまったのだろう。 起こすのも可哀想だけれど、せっかく美味しいケーキがやってきたのだ。 どうしようかな、と考えていると、ふいに背後から背の高い兄が顔を覗かせた。 「何だ、寝てるのか?」 幸せそうな寝顔を見せる恋人と甥っ子の姿に、ギイは目を細める。 日曜日、久しぶりに会おうと連絡してきたギイは、 「料理の腕前がどれくらい上がったか確認してやるよ」 などと意地悪なことを言って、私の家で夕食!と勝手に決めてしまった。 ギイは仕事があったので、託生さんだけが一足先に家にやってきて、最近ようやく片言が話せるようになった息子とずっと遊んでくれていたのだ。 ギイにとてもよく似ているせいか、 「小さいギイを見てるみたい」 と、託生さんはギイがヤキモチを焼くくらいに可愛がってくれている。 少し遅れてやってきたギイは、美味しそうなケーキを買ってきてくれたのだが、この分では私とギイと二人だけで食べることになりそうだ。 「くそー、添い寝なんてオレだってしてもらったことないのに。今夜絶対してもらう」 「ギイって、相変わらずそんなこと言って託生さんを困らせてるの?」 「誰も困ってない」 「はぁ、自覚がないって怖い。いいわ、起きたら託生さんに聞いてみるから」 ふんわりと二人にタオルケットをかけて、久しぶりに兄妹だけのティータイムとなった。 お互いに幸せな生活をしていることを確認しあって、それぞれ恋人と子供が起きてくるのを待つことにした。 9.「添い寝」 10. 「帰りたくないな」 「しょうがないだろ。仕事なんだし」 空港までの車の中で、いったい何度同じ会話を繰り返しただろうか。 もう納得したと思ったのに、またギイは同じことを言い出した。 もうすぐそこは出発ゲートなんだぞ。今さら何を言ってもどうしようもないというのに、往生際が悪いなぁ。託生は気づかれないようにため息をついた。 ギイは腕を組んだまま、うーんと低く唸る。 「また1ヶ月はまともに会えない」 「だね。でも、2年以上会ってなかったことを考えたら短いよ?」 「お前、笑顔でそういうこと言うなよ」 「だって、もう二度と会えないかもしれないって思ってた頃のことを思えば、少なくとも1ヶ月後にまた会えるって分かってるんだから、ぜんぜん平気だよ」 「会えなくても?」 「会えなくても」 「お前、冷たい」 むぅっと唇を尖らせるギイに、託生は小さく笑った。 「じゃあアメリカに帰らないでよ、ギイ」 託生が言うと、ギイは嬉しそうに目を細めた。 「仕事なんて誰かに任せて・・・」 「うん」 「このまま一緒に家に帰ろう」 「そうだな」 「で、一緒に何か美味しいもの作って・・・」 「いいな」 「ワインなんかも飲んじゃって」 「よく冷えた白な」 「途中になってるDVDをソファで見て・・・」 「あれ、まだまだ続きあるからな」 「ぬくぬくのベッドで一緒に寝る」 「あーそれは至福だな」 「でもそんなことしたら間違いなく島岡さんに怒られるよね」 「あー、くそっ」 がっくりとギイが肩を落とす。そんなギイに託生はくすくすと笑って、周囲の人におかしいと思われないように、指先だけを摘んだ。 「大好きだよ、ギイ」 「・・・・」 「会えなくても平気だよ。だって、今度の仕事が終わったら、しばらくは一緒にいられるんだろ?」 「ああ」 「だったらそれまで楽しみに待ってるよ。何だっけ、会えない時間が愛を育てるんだっけ?」 「もう十分育ってるからいいんだよ」 ギイが身を屈めて、託生の頬にキスをする。 優しいキスに、託生はやっぱりちょっと寂しくなった。 帰したくないのは、本当は託生の方なのだ。 だけど、長く離れていたあとに再会して、これからはずっといっしょだよ、と言ってくれたギイのことを信じてる。 だから大丈夫。 「今度会った時には、さっき言ったこと全部しよう、ギイ」 「もちろん」 「でもDVDは我慢できなくて先に見ちゃうかも」 「先に見たらオシオキだからな」 「だけど、見たかどうかなんてギイには分からないだろ?」 「分かるよ」 「どうして?」 「どうしても」 わけ分かんないよ、と託生が笑う。 そんな託生の頬をむぎゅっと摘んで、ギイは「先に見るなよ」と念を押した。 出発時刻を知らせるアナウンスが入り、近くにいた人たちが次々にゲートへと歩き出す。 「そろそろ時間だよ」 「ああ」 それ以上は何も言わず、互いに見詰め合ったあとに微笑みあう。 「いってらっしゃい」 「いってきます」 そんな挨拶がどうしようもなく嬉しかった。 それは必ずそばに帰ってくるという証だから。 10.「ずっといっしょだよ」 |