眩しさ


305号室。
託生の椅子の横にオレも椅子を引っ張ってきて座り、苦手だという英語の予習をチェックしている時だった。
しゃっと音がしてカーテンが引かれ、手元が暗くなった。
顔を上げると、窓辺に立つ託生が振り返って、ごめんと笑った。
「ギイ、眩しそうにしてたから」
「ああ、日差しがきつくなってきたよな」
「瞳の色が淡いから、ぼくよりも眩しく感じるんだよね」
「え?」
「そこに座ると、ちょうど逆光になるだろ?いつも眩しそうにしてるから」
「・・・あー、そうだな」
「ぼくは好きなんだけどね」
「?」
「ギイの瞳、光を弾くとすごく綺麗な金色なんだ。いつもうっかり見惚れちゃって、カーテン引くの忘れちゃうんだ。ごめんね」
託生は自分の席に座ると、和訳ちゃんとできてた?とノートを覗き込んだ。
何てことのない出来事なのに、どういうわけかじんわりと胸が熱くなった。
気づかないところで、託生はオレのことを見ているのだ。
そしてこんな風に簡単に「好きなんだ」なんて殺し文句を口にするのだ。
「・・・いきなりカーテンなんて引くから、オレ、誘われてんのかと思ったよ」
「は?!」
託生は目を丸くして、すぐに頬を赤らめた。
「ち、違うよ、何言ってんだよ、ギイ」
「なぁ託生、英語の予習終わったら、キモチイイことしようか?」
机に肘をついて、下から託生を覗き込む。
しばらく無言でオレを見ていた託生は、やがて小さくうなづいた。
顔を近づけて口づけると、託生はさらに顔を赤くした。
「・・・とりあえず予習ちゃんと見てよ、ギイ」
「はいはい。ここ間違ってるぞ」
指摘されて託生は再び英語と格闘を始める。
オレのために引かれたカーテンが風にふわりと揺れた。




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あとがき

書いた当初、けっこう気に入ってた話でした。