まずいな、と思ったけれど、あえて無視することにした。 朝からちょっと熱っぽいなと思っていたのだ。まぁ午後いっぱいくらいは何とかなるだろうと思っていたのだが、どうやら熱が上がってきたようだ。 奈美に気づかれたくないし、病は気からというので、考えるとさらに熱が上がりそうなので、無視することにしたのだが。 「章三くん?」 薬飲んでくれば良かったなぁなどと考えていたので、うっかり無言になってしまって、奈美が怪訝な顔で僕の名前を呼んだ。 「どうかした?」 「いや。欲しい本あるんだろ?本屋ってどっちだっけ?」 広いショッピングモールはいつ来ても迷子になりそうになる。 奈美はうーんと少し考えたあと、くいっと僕のシャツの肘のあたりを引っ張った。 「帰ろう?章三くん、熱あるんじゃない?」 「・・・・」 「帰りの運転は私がするからね」 にっこりと笑って僕へと手を差し出す。 仕方がないと諦めて、ポケットから車のキィを奈美の手に落とす。 「章三君が私の助手席に座るのって初めてじゃない?」 やけに楽しそうに奈美が笑う。 二人で出かける時は、奈美にハンドルを任せることはないので、どうやら運転できるのが嬉しいらしい。 「安全運転でよろしく」 「了解しました。眠ってていいからね」 それは無理だと思ったが、案外と奈美の運転は上手だったので、うっかり眠ってしまった。 今度から交代で運転してもいいな、と夢心地の中でそう思った。 |