発熱


こんこん、と託生の苦しそうな咳が305号室に聞こえる。
喉が渇いただろうと思って売店で買ってきたペットボトルの蓋を開けて、託生へと差し出した。
「ありがと、ギイ」
掠れた声は、それでも昨日よりはずいぶんましになった、かな。
季節の変わり目で油断したせいか、託生は3日ほど前にいきなり体調を崩して、昨日は高熱でうなされていた。
額のタオルを変えてやったり、苦しそうにしているから手を握っていたり、そんな恋人としては当たり前のことを、託生はずいぶんと気にしていて、朝からずっとしおれた花のようにしゅんとしている。
「あのなー、オレは一晩くらい寝なくても平気なんだって、託生が辛そうにしてるのに、オレだけグーグー寝てられるわけないだろ?」
「だけど・・」
「いいんだよ、オレがしたかったからそうしただけだ。託生は気にしなくていい。いいな?」
こくん、と託生がうなづく。よし、とオレは託生の額に自分の額をこつんと当てた。
「熱下がったか?」
「・・・っ」
とたんに託生が真っ赤になってオレの肩に手を張る。
「何だよ?」
「だ、って・・・また・・熱出ちゃいそうだから・・・」
「・・・・」
恋人同士になって、そりゃまだキヨイ間柄で、こんな風に触れ合うことは稀だけどな。
だけど、それは・・・反則だろう。
オレは逃げようとする託生の額に、もう一度額を当てた。
「ギイっ」
「んー、また熱が出たら、またオレが看病してやるよ」
「・・・」
「託生の看病はいつでもオレがする」
「・・・」
「だから、もしオレが寝込んだら、今度は託生がオレの看病してくれよな」
オレの言葉に、託生がうんとうなづく。
ああ、まずい。
風邪を引いたわけでもないのに、オレの方が熱が出そうだ。




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あとがき

純情な2人。今となっては懐かしい。