※分類不能ですが、とりあえずギイ×託生で。でも明らかに脇役。 ※時期としては「ギイがサンタになる夜は」の頃です。 ※あきらかにアホな話です。 人里離れた山の中腹に建つ全寮制男子校、祠堂学院高等学校には、麓の女子高生ならば知らない人はいないほどのアイドルがいた。 入学試験科目に容姿の欄があるのではないかと噂されるほどに、祠堂には美男子が多い。 その中でも群を抜いて女子高生たちに人気のアイドルが、アメリカからの留学生、崎義一であった。 「聞いて聞いて、週末、崎さんの姿を見かけたのよっ!!」 朝一番、教室に入るなり夏美が叫んだ。 いつも一緒にいる春香、秋歩、冬希の元へ駆け寄ると、大きな音をさせて椅子に座り込む。 「ちょっと、崎さん見かけたって、どこで見たのよ」 興奮気味に問い返す春香に、まぁちょっと落ち着きなさい、と秋歩が静かに諭す。 夏美はほーっと一つ息をついて声をひそめた。 「駅前の本屋さんで。最初は友達と2人で靴屋の前でずっと物色してたみたいなんだけど、一人になってからちょっと悩んだあとに、友達を追って本屋さんへ!」 「なに、あんたずっと崎さんのこと見張ってたの?」 「見張ってたんじゃなくて、見つめてたの」 「で?その友達って赤池くん?」 4人の中では一番の赤池章三ファンの秋歩が目を輝かせる。 「違います、ほら、赤池くんともよく一緒にいる・・・」 「ああ、葉山くんね?」 冬希が即答する。冬希は祠堂の男前なら全員フルネームで名前が言えると豪語しているほどの祠堂フリークなのである。 葉山託生は決して美男子の部類に入るわけではなかったが、何しろ2年になってからというもの崎義一と赤池章三としょっちゅう一緒にいるので、嫌でも「あれは誰だ」ということになり、すぐに名前が調べあげられた。女子高生の情報網はあなどれないのである。 「葉山くんかー。相変わらず崎さんと仲良しねぇ」 春香がふふ、と意味深な笑みを浮かべる。 「で、夏美がそれだけ興奮してるってことは、ただ本屋で見かけただけじゃないんでしょ?いったい何があったの?」 「そうそうそう。崎さん、そこで葉山くんと待ち合わせしてたんだけど、2人で一緒に店を出たとき、何があったと思う?」 「何よ、もったいぶらずに教えてよ」 3人が身を乗り出す。 夏美は顔を寄せ、あのね、と切り出した。 「崎さん、葉山くんの腰を抱いて歩いてたのよっ!!!」 聞いたとたん、3人がぎゃーっと黄色い声を上げる。 「な、何よ、それ!!」 「確定?ねぇねぇ、それって確定なの???」 「いやー、まぁ冗談ぽかったから、確定とまでは・・・」 「それらしい会話は?」 「いや、ちょっと遠かったからそこまでは・・・」 「何よー。ぜんぜん駄目じゃない。私たちが欲しいのは・・あの2人ができてるっていう確証よっ!」 鼻息荒く春香が言うと、声が大きいと3人がたしなめた。 そう。 この4人は単に祠堂にいる男前と、「できれば付き合いたい」と夢見る女子高生ではなく、見目麗しい祠堂の学生同士が恋愛していればどんなに楽しいことか!と想像を膨らませている困った女子高生なのである。 もちろん、妄想である。 しかし祠堂は男子校で、おまけに寮生活。 もしかしたらそういう恋愛もあるんじゃないか、といったん浮かんだ邪な考えはどんどん膨らんで、今では挨拶代わりに祠堂の誰と誰が怪しいかという話を毎日しているのだ。 話をしているだけならまだ可愛いものだったが、最近ではそれが高じて勝手に作りあげたカップリングで、オリジナルの邪なお話まで書いている始末だった。 書き上げた煩悩小説は、4人でユニットを組んでイベントなどで作品を売っているのだが、これが案外と人気が出ており、今では固定のファンもついている。 世の中いろいろ間違ってるなぁと思いながらも、やはり需要があるのは嬉しいもので、決して実名で書いているわけではないのだけれど、新しいネタを探すために、どうしても祠堂の学生に注目しないわけにはいかなかった。 何しろ男前なら祠堂には山ほどいるのだ。 そして、言うまでもなく、その筆頭は崎義一である。 少女マンガにでも出てくるようなパーフェクトな容姿で、噂では祠堂の中でも人気ナンバー1だというのだから、もうカップリングし放題、妄想だって炸裂しようというものだ。 ちなみにその相手としては相棒だといわれている赤池章三であったり、祠堂一の美少女(?)と言われている高林泉だったり、現在の寮の同室者である葉山託生であったり。とにかく相手には事欠かない。 なので、街で崎義一を見かけるたびに、「何かないか!」と思わず目がいってしまうのだ。 祠堂の学生にしてみれば迷惑なことではあるが、知らぬが仏というところである。 ちなみに春香は「崎さん×葉山くん」一筋。 夏美は「崎さん×赤池くん」一筋。 章三ファンの秋歩は「赤池くんは絶対に攻じゃなきゃ嫌だ」と言い張って、かといってその相手はどう考えても崎さんではないということで、最近仲良くしている葉山託生に白羽の矢を立てた。 なので今はとりあえず「赤池くん×葉山くん」だった。このあたりかなり適当である。 冬希は特に固定のカップリングがあるわけではなく、とりあえず崎さんが攻なら相手は誰でもOKというある意味節操のない性格をしていた。 「崎さんてさー、アメリカ国籍なんでしょ?エスコートするのって普通なんじゃないの?」 「エスコートたって、相手は同じ男なのよ??普通するかなーそういうこと」 「だから腰抱いたのは冗談なんだって。ふざけてた感じだもん」 「でも葉山くんて、ちょっと守りたくなるようなぽーっとした感じじゃない?母性本能がくすぐられるのかも」 「何で男の崎さんに母性本能があるのよ」 「ああ、でも見たかった!!崎さんが葉山くんの腰を抱いてるところ!!」 春香が身悶える。 「それにしても悔しいなぁ。もう少しその美味しい現場を早く見ていたら、私、それをネタにお話書けたのに」 「え、腰抱いてただけで?それも冗談で、だよ?」 春香の言葉に秋歩がぎょっと目を見張る。 「当たり前よっ!だって、私が一押しのカップリングが恋人よろしく腰を抱いてたのよっ!これで何もしないなんてありえないでしょうっ」 「分かったから、そう興奮しないでよ」 夏美がやれやれと肩をすくめる。 「まぁ確かに崎さんと葉山くんて、いい感じだとは思うけど、やっぱり私は崎さんの相手は赤池くんがいいな。だって、相棒っぽいじゃない。どっちが攻か微妙なカップリングっていうのが私はツボなのよ」 「だからって、崎さんの相手に赤池くんを設定しないでくれる?赤池くんは攻じゃなきゃだめなのよ」 秋歩がこればかりは譲れないと大きくうなづく。 「とにかく、夏美が見たっていう腰抱き事件は大きいわ。放課後、また相談しましょう」 「そうね、そうしよう」 授業が始まるチャイムとともに、4人はそれぞれの席についた。 もちろん頭の中は邪な妄想でいっぱいだった。 さて放課後。 いつものように4人は人気のない図書室の片隅に集合をしていた。 最近ではここで邪な話の相談をする場所となっていた。真面目に勉強していると見せかけて実は人には聞かせられないような話をしているのだから、困ったものである。 「それにしてももったいないことをしたなー。一目でいいから見たかった。崎さんが葉山くんの腰を抱いているところ!!!」 春香がじたばたと足を鳴らす。 「ねぇ、そんなことより、やっぱり崎さん×葉山くんていうお話一本にした方がいいんじゃない?」 「次のイベント用のお話?えー、腰抱き事件くらいならコピ本でいいよ。だいたい次のイベントはエロにしようって決めたんだし」 「それなんだけどっ!!」 だん、っと秋歩が机を叩く。 「やっぱり漫画やアニメの主人公をネタにエロ話を考えるんならいくらでもできるけど、実物をネタにあれこれ考えるの難しいよ〜」 「漫画やアニメならいくらでもできるっていうのも問題だと思うけど・・」 「だって、モデルがいるとリアルすぎるじゃない!」 実際に目の前にいる人物をネタに、あれやこれや妄想していると、街でばったり姿を見たときに必要以上に動揺してしまうのだ。 「リアルすぎる、って言っても、別に崎さんたちは本当にできてるわけじゃないんだし、ただ単に設定とキャラを借りてるだけじゃない。全寮制の男子校、アメリカからやってきたイケメンの留学生。まさしく妄想の源よ。だいたいオリジナル作品だよ?漫画やアニメの二次をやるより罪はない」 「そりゃそうだけど・・」 「ていうか、秋歩はエロ話書くのが苦手だからそんなこと言ってるだけでしょ?」 「うっ・・だって、恥ずかしいんだもん」 別に今更そういうことが恥ずかしいというわけではない。 エロ話は大好きだ。どんな体位もシチュエーションもどんと来いというくらい度胸は据わっている。 だがしかし、それは他人が書いたお話を読むことについてであり、自分で書くとなると話は別だ。 なので、秋歩が書くお話は「寸止め」「朝チュン」が定番となっている。 「まぁそれはそれでいいんだけどさ、たまにはこう、濃厚なエロ話を書いてみたくならない?」 春香は秋歩とは違って、基本的にはエロ専門だった。どんな小さな出来事でも必ずエロに持ち込めるという素晴らしいテクニックに、他の3人は一目置いている。 「そりゃなるけど!!私だって書けるものならすっごいヤツを書いてみたいけど!でも書けないんだもん」 「妄想だけなら人一倍すごいの考えつくのにもったいないよね」 「次の原稿進んでるの?」 「できてない」 「いばるな」 「それにしても葉山くんて、誰が相手でも必ず受になっちゃうよね。何でだろう」 夏美が首を傾げる。 土日になると街には祠堂の学生が下山してくる。夏美も葉山託生のことをたまに見かけるのだが、決してなよなよしたタイプでもないし、むしろどこか一本筋の通った意思の強そうな人に見える。 それなのに誰かとカップリングにすると必ず受になってしまうというのが不憫に思えて仕方ない。 もっとも、自分たちで勝手に受にしているだけなので、不憫もなにもあったものではないのだが。 「葉山くんが攻のお話って誰も書いてないよね、どうしてかなー」 「そんなの決まってるじゃない!崎さんより背が低いからよ!!それ以外に何があるのよっ」 崎×葉山を押している春香が力説する。 一目2人を見たときから、あの2人は怪しいと断言している春香は、攻受は背の高さで確定すると言い切ってならない。年上と年下なら攻は年上、先輩と後輩なら攻は先輩。ある意味王道といえば王道である。 「ねぇ、もしかして春香、もう原稿できたの?」 「もちろんよっ!今回はすごいわよ。嫉妬に狂った崎さんにお仕置きされちゃう葉山くんよ」 「え、なにそれ。お仕置きだなんて、すごい萌えシチュじゃない」 「ふふ、崎さんて、めちゃくちゃ爽やかに見えるけど、実はけっこう嫉妬深いんじゃないかなーって思って、今回頑張ってみました」 じゃーんと春香が下書き用の原稿用紙を取り出す。 見せて見せてと群がる3人はざっと目を通すと、すごい!と歓喜の声を上げた。 「ちょっと崎さんてば完全にSじゃない!!葉山くんが可哀想すぎる」 「きゃー、何これ!!縛られちゃってる!!」 「・・・葉山くんも案外とやるわね」 すでに現実と妄想の区別がつかなくなってきている3人は、春香が書いたエロ話にため息をつく。 「エロすぎる。素敵。春香ってば天才!」 嬉々としてエロ話を堪能した3人は、やはりエロ話は春香に任せて、自分たちは違う路線でいった方がいいんじゃないかと言い出した。 「だって、これ以上のすごいエロなんて私には無理よ」 「大丈夫よ。夏美はこの前の文化祭ネタで書くって言ってたじゃない。ウェイター姿の崎さんと厨房でエプロンしてた赤池くんに妄想したんでしょ!」 「した。赤池くんの作ったケーキも小道具として使ってみた。でもねー、実は舞台に出てた真行寺くんにも目をつけてるんだよねぇ」 「あ、私も真行寺くんカッコいいなーって思った。1年の中じゃダントツの王子様よ。あれは受であってほしい」 「受?真行寺くんは攻に決まってるじゃない」 「え、どうだろう。微妙だなぁ」 「うふふ、真行寺くんと崎さんとで何とかしてみたい」 「でも真行寺くんて崎さんより背が高くない?大丈夫?」 あくまで背の高さにこだわる春香が首を傾げる。 「言っておくけど、崎さんが受っていうのはあり得ないから」 「それは鉄板」 「え、でも意外といいかも、とか思うんだけど・・・」 冬希は誰もが避けて通るイバラの道も歩けるタイプなので、まさかそんな、というカップリングであっても美味しくいただけるのである。 「ええ!?崎さんはどこからどう見ても攻でしょ。だいたい葉山くんが崎さんを襲うなんてとこ、想像できる?」 「確かに葉山くんは非力そうだけど、でも意外とやる時はやるかも・・・」 いや、絶対にやらないから!と全員が突っ込みを入れる。 「そんなことより!次回のイベントはエロ決定。この冬休みに、みんなちゃんと原稿仕上げてよ。久しぶりの合同誌にするんだから!」 「うう、無理だ。春香の書くエロよりすごいのなんて無理だー」 秋歩が机に突っ伏す。 そんな秋歩に、3人が秘蔵のエロい話の載った作品集を貸してあげるから、とエールを送った。 かくして冬休みへと突入し、年が明ける頃には4人はちゃんと原稿を仕上げてきた。 もちろんお約束通りのエロ話である。 メインは春香が書き上げた「崎義一×葉山託生」のお仕置きエロを、夏美は「崎義一×赤池章三」で文化祭ネタのエロ話を、秋歩はさんざん悩んだ結果「赤池章三×葉山託生」でお初ネタを、そして冬希はダークホースとして現れた真行寺を登場させて「真行寺×葉山託生」で下克上エロを。 冬休みをかけて書き上げたエロ話は今までにない完成度で、4人は手に手をとって喜びを分かち合った。 「やっぱりどうしても葉山くんは受にしかならなかったわ」 「真行寺くんって王子様かと思ってたけど、意外と鬼畜ネタで活躍してくれたわ」 「崎さんてやっぱり実は腹黒いっていうのが萌える〜」 「赤池くんは攻でも受でもOkなんて一番使い勝手がいいわよね」 などと、本人たちが聞いたら激怒しそうな台詞を好き勝手に言い合って、次回のイベントへの士気をあげた。 「さぁ、無事原稿もできたことだし、次回作の妄想を膨らませるためにも、週末は街へ出て、祠堂男子のウォッチングをするわよ」 「そうね、年明けの最初の土日だもん、絶対みんな下山するはずよ」 「何はなくても崎さんと葉山くんを見つけなくちゃ!」 4人が書いているのはあくまでオリジナル作品である。 けれど、全寮制男子校という乙女心をくすぐられるシチュエーションと、普通よりもずっと高いレベルの男子高校生たちの姿に創作意欲が刺激されて、少なくとも彼らが卒業するまでの間は、今のカップリングで楽しませてもらおうと心に決めていた。 「何だか、時々妙な視線を感じるんだよな」 ギイが首筋に手をやって、眉をひそめる。 新年が明けて、まだお正月ムードの残る街へと下山した日曜日。 映画を見たあとに立ち寄ったカフェでのことである。 「それって、女の子たちからの熱い視線ってヤツじゃないの?」 隣でアイスティを飲んでいた託生が、少しばかり不満げな口調になる。 ギイが麓の女子高の女の子たちに絶大な人気があるのは今更なことなので、ヤキモチなんて焼いたりしないが、それでも何とも微妙な気持ちになってしまうのも事実なのである。 「いや、そういう視線じゃなくてさ・・・」 「ギイもか、実は僕も時々感じるんだよな、おかしな視線」 ギイの真向かいで章三も首を傾げる。 周囲を見渡しても別段変わった様子はない。 女子高生がちらちらとこちらを見ていても、それはいつもの光景で。 「気のせいかな」 「だな」 「託生、それ一口ちょうだい」 ギイが託生のアイスティを強請る。外は寒かったのでホットコーヒーを頼んだものの、カフェの中の暖房が異様に暑くて、託生が頼んだアイスティが美味しそうに見えて仕方ないのだ。 「いいけど・・全部飲まないでよ」 「分かった分かった」 当てにならない笑みに少しばかり不安になりながらも、託生がグラスをギイへと差し出す。 ギイがストローに口をつけたとたん、ぞくりと背筋に嫌な感覚が走った。 「どうかした?」 託生が首を傾げる。ギイが辺りを見渡したが、特に変わった様子もない。 「いや・・・やっぱり疲れてるのかな。託生、帰ったら癒してくれよな」 「・・・何でぼくがギイを癒さないとだめなんだよ」 「冷たいなぁ、お前オレのこいび・・・むぐっ・・」 「だから!人前でそういうこと言うなって言ってるだろ!!」 託生がギイの口をふさぐ。とたん、それまで何も感じなかった託生も、ぞわりと嫌な視線を感じた。 「・・・何だろ?」 「帰るか。何だかここにいちゃまずい気がする」 そうだね、とうなづきあって、ギイと託生と章三が立ち上がり、そそくさとカフェをあとにした。 3人がカフェを出ると、同じカフェにいた春香たちがふるふると拳を震わせた。 「あれが無意識だとしたら、あまりに美味しすぎるわ」 一つのストローでアイスティを飲み、口元を手でふさぐ。 それもごくごく当たり前のことのように。 「恐るべし、葉山託生」 「次回の作品で、さっそく使わせてもらうわ」 「それにしても異様に仲が良すぎる・・・」 「もしかして、本当にデキてるとか・・」 「それはないって、小説の世界じゃないんだから」 でも本当だったらどんなに楽しいことか。 思わず指を組み合わせて祈ってしまう4人である。 そんな彼女たちが本当のことを知ったら、狂喜乱舞するのかそれとも案外とがっかりとするのか。 それは神のみぞ知るところである。 |