眠れなかった。
気持ちが昂ぶって、下手すれば叫びだしたいくらいに幸せで、心臓が高鳴っていた。 本当にこれが夢でないことを確かめたくて、手を伸ばして、眠る託生の指先に触れてみた。 長い指に短い爪。バイオリンを続けている託生の指の腹は硬く、その感触も懐かしい。 高校3年の秋、あんな形で別れてしまって、けれど、またこうして再会できた。 互いの気持ちは何も変わってなくて。 そんな奇跡があるなんてまだ信じられなくて、眠ってしまえばすべて夢になってしまうような気がして、怖くて目を閉じることができなかった。 そんなオレとは違って、託生は静かな寝息を立てている。 オレなんかよりずっと大物だよな、こいつは、と笑いが洩れる。 会えるかどうかも分からないNYへ、ただ一人でやってきた。 オレにもう一度好きだと告げるために。 いろんなしがらみに雁字搦めになって動けないでいるオレに、託生の方から手を差し伸べてくれた。 託生が、オレにもう一度チャンスをくれた。 「ん・・・」 ゆるゆると託生が瞼を開ける。 「どうしたの?眠れないの?」 目元を擦って、託生は半分寝ぼけたような顔をしてオレを見た。 「眠るのが怖いんだよ」 「え、どうして?」 「眠ったらお前がいなくなっちまいそうでさ」 「・・・ぼくはここにいるよ」 くすんと笑って、託生はオレの指に自分のそれを絡めた。 「もう離さないって、ギイが言ったくせに」 「うん」 「もう離れないよ。だから、安心して眠って」 夢じゃないことを確かめるため、目を閉じて、眠りにつこう。 明日の朝、目覚めてそこに託生がいたら、今度こそ本当に奇跡を信じることができる。 ***** お題は 「あなたは『いま眠ったら今日の幸せだった出来事が全部夢になっちゃうんじゃないかと思って眠れない』ギイのことを妄想してみてください」 でした。 |