※下世話ネタ注意 (またですよ!)
3階のゼロ番で、気の置けない仲間たちと宴会をした。 まぁ名目は何でもいいんだろうけど、今回は中間テストの打ち上げだとか。 いつも1年生たちに纏わりつかれて少々お疲れ気味のギイも、その夜はずいぶんとリラックスした雰囲気で楽しそうだった。 宴会となれば、当然アルコールが登場する。 明日は休みだからとことん飲むぞと言う矢倉が、ぼくのコップにもどんどんとビールを注いだ。 ぼくも飲むのは嫌いな方ではないので、注がれるままに口に運んだ。 気がつけば5時間近く、ぼくたちは楽しく宴会をしていたのだけれど、みんな酔いが回ってくると人格が変わるというか何というか。いつも以上に突込みが激しくなってきて、とてもぼくではかわし切れなくなってきた。 ぼくを庇ってくれるギイでさえ相当酔っ払っている様子で、ぜんぜん助けてくれなかった。それにみんなが調子に乗ってまたぼくばかりをからかうものだから、ほんと、飲まずにはやってなれない、とばかりにどんどん飲んでしまった。 だからぼくも自分で思っている以上に酔っていたのかもしれない。 で、さすがにそろそろお開きにしようか、となった時だった。 「葉山に聞きたいことがある」 突然矢倉がぼくに話を振ってきた。 赤い目をして少々呂律が回っていないのが怖い。 「ずっと気になってたんだけどさー」 矢倉はぼくの隣に座ると、がしっと肩を組んできた。 こんな時、すぐに待ったをかけるであろうギイは、お開き用のソフトドリンクを調達しに、章三と一緒に部屋を出て行ったばかりだった。 (逃げられない) 部屋には酔いつぶれて眠ってしまった吉沢と野沢がいるだけである。 (お願い、ギイ、早く帰ってきて) とぼくが心の中で叫んだとしても、誰も責められないだろう。 だって、矢倉はいつも答えにくい質問をずばずばしてくるのだ。 今回も絶対に変な質問に違いないと思う。 さっきだって、ぼくとギイとのことをあれやこれやと聞いてきて、返事に困ったのだ。 一応、今のぼくたちはただの友達ということになってるから、下手に答えると意味がなくなるし。 ああ、ぼくが飲みものを買いに行けば良かった。なんて、今となっては後の祭りだ。 「ギイのことなんだけどさ」 矢倉がぼくの耳元でひっそりと告げる。 「えっと・・・矢倉くん、もうちょっと離れてくれないかな」 こんなところ、ギイに見つかったら大変なことになる。 矢倉はもちろんのこと、ぼくだってギイに拗ねられたらけっこう大変なのだ。 「ギイはいないから大丈夫だーって」 「いや、そういうわけには・・・」 矢倉はもうべろんべろんで、ぼくに凭れ掛かってくる。 「あの、矢倉くん、聞きたいことって何かな?」 ギイが帰ってくる前にこの状況を終わらせないと!! ぼくはほらほら、と矢倉を促した。矢倉は、んーーと少し唸ったあと、あのさ、と続けた。 「葉山、ギイと一緒に風呂に入ったことあるか?」 「えっ??」 何だその質問は?ていうか、やっぱり変な質問じゃないか。 ぼくはその質問で一気に酔いが覚めてしまった。 「あるんだろ?」 「え、いや、えっと・・・」 「誤魔化すなよ、あるに決まってる!!」 (もう・・・断定するなら聞くなよ) と思ったけれど、酔っ払い相手なのでぐっと我慢する。 「はーやーまー」 胡乱な目で睨まれて、ぼくはしぶしぶうなづいた。 「・・・ある・・よ」 一緒に入ったというよりは、無理やり連れ込まれたという方が正しいことが多いけど。 ぼくの答えに、矢倉はくそーと身悶える。 「だよなー、いいよなー、同室ってなー」 「それ、去年の話だろ」 今は同室じゃないんだから。と反論してみせるが、もちろん矢倉は聞いちゃいない。 「俺も一緒に入りてぇなー」 誰と、なんて聞くのは野暮というもので、矢倉が愛してやまない八津のことに他ならない。 矢倉も1階の階段長なのでギイと同じように個室なわけだけど、そうそう頻繁に八津を泊めたりはできないでいるのだろう。何しろ八津には矢倉のことを快く思っていないお取りまきが多数いて、2人が親しくするのを邪魔しているところがある。 八津が困らないように、矢倉がいろいろ気を使っているのはぼくだって知っている。 だけど、好きならそういうの気にしないでいいのに、なんてアルコールで少しぼんやりした頭でぼくは思った。自分のことは棚に上げてとはこのことだ。 「そっかーやっぱり入ったことあるんだよなー」 矢倉はふむふむと一人うなづく。 「なぁ、風呂でするのってどんな感じ?」 「・・・・・」 「なぁなぁ、はやまー、教えてくれよ」 「知らないよっ」 そんなこと言えるわけないだろっ。 矢倉って酒癖悪いなぁ。 今まであんまり一緒に飲んだことなかったから、知らなかったよ。 「矢倉くん、そんなことが聞きたかったのかい?そういうの聞くのって悪趣味だと思うんだけど」 ぼくが言うと、いやいや、と矢倉はにんまりと笑った。 「本題はここからだ、葉山」 「今度はなに?」 「ギイってさ、下は何色?」 「は?」 何だかとてつもなく嫌な質問をされたような気がして、ぼくは固まってしまった。 「だーかーらー、ギイって、フランスだっけ?の血が四分の一入ったクォーターだろ?」 「うん」 「髪の毛の色とか薄いじゃんか?」 「・・・・うん」 「なら、下はどうなのかなーって普通思うだろ?」 (いや、ぜんぜん思わないし!!!そんなこと普通は考えないし!!!) 「あいつ、足とか腕もつるつるだろ?もしかして脱毛してるとか?」 「まさか、そんな・・・」 脱毛?なんてしてる姿見たことないし。そんなことするギイを見たくない。 矢倉がうーんと首を傾げる。 「けどさぁ、外人ってさぁ、けっこう毛深かったりするだろ?胸とかわさーっと毛があるのが男らしさの象徴だったりするしさー」 そうなのかな?そう言われてみればそうかも?いや、考えことないけど。 「ギイもさー。もうちょっと歳取って毛深くなったりしたらどうよ?」 「どうよって・・・」 「わさわさーっとさ」 「・・・・」 そんなこと考えたことも想像したこともないから分からない。 毛深いギイ?? だめだ、想像できない。 ぼくが黙っていると、矢倉はさらにぼくへと身を寄せてきた。 まるで内緒話をするかのように、ぼくの耳元で低くつぶやく。 「で、下はどうなんだよ?やっぱり薄い色?」 「え、っと・・・」 「一緒に風呂入ってるなら見たことあるんだろー」 この酔っ払いをどうしたらいいんだろうか? そりゃ一緒に風呂に入ったことはあるけれど、そんなとこまじまじと見たことないし。 や、知らないのかと言われればそんなことはないんだけど・・・ 「矢倉くん、そんなこと聞いてどうするのさ?」 「単純に知りたいだけだ」 きっぱり言い切られてはそれ以上何も言えない。 「あのさ、そういうことなら、ぼくじゃなくて、直接ギイに聞けばいいだろ?何で、ぼくに聞くのさ」 「あいつにこんなこと聞いたら何言われるか分かったもんじゃないだろーが」 「そんなのぼくだって同じだろ!?」 「けど葉山に聞くのが一番早いだろ?他に誰が知ってるっていうんだよ」 そりゃまぁそうかもしれないけど。 「葉山がー、教えてくれないんならー、俺、ギイと一緒に風呂入るかなー」 「何だよ、それっ」 別に温泉とかで友人同士が一緒に風呂に入ることなんて普通にあることだけど、その時のぼくの脳裏に浮かんだのは、寮の狭いバスルームのイメージだった。 あの狭いところに、でかい男が2人と考えるだけでも暑苦しいし、それ以前にギイがぼく以外の誰かと、というのはすごく嫌だと思ったのだ。 「絶対だめ」 思わず口調がきつくなる。 「でも葉山が教えてくれないんならしょうがないだろー」 矢倉は何がおかしいのか、けらけらと笑う。 「だから、ギイに聞けってば」 「何だとー」 とにかくもうお互いに酔っ払ってるので支離滅裂だ。矢倉に比べれぼくの方がまだ幾分ましだとは思うけど、まぁどっちもどっちだ。 「けちー」 矢倉はぶつぶつ言いながら、半ば崩れ落ちるようにして、ぼくへと倒れこんできた。 「ちょっと、矢倉くんっ」 彼の体重を支えきることができずに、そのまま床へと倒れこむ。ぼくの体の上に矢倉が覆いかぶさったまま、ぴくりとも動かなくなってしまった。 「もうっ、重いってば!!」 寝てしまった人間というのは妙に重くなるのだ。何とか退けようと必死になっているところへ、お約束のようにギイと章三が飲み物を持って帰ってきた。 ぼくが矢倉に押し倒されているのを見たギイは、とたんに怒りを顕にして 「矢倉ー、お前いい度胸してるな」 と、矢倉の肩を足で蹴り飛ばした。 ごろりと仰向けに転がる矢倉になおも蹴りを入れる。 「オレの託生に抱きつくなんて、命知らずなヤツだ」 「オレの、とか言うな」 章三が嫌そうにギイを睨む。 「ほら、託生」 ぼくへと差し出されたギイの手をとり、ようやく酔っ払いから逃れることができた、 「いったい何やってたんだ。返答次第じゃオシオキだぞ」 はい? 何でぼくがオシオキされなきゃならないんだ! ぼくは慌てて言った。 「矢倉くんがおかしなこと聞いてくるからっ、ぼくが悪いんじゃないよ、それに半分はギイのせいなんだからなっ」 「何だよ、それ」 アルコールのせいで目の縁を赤くしたギイがぼくへと詰め寄る。 「だって、ギイと一緒に風呂入ったことあるのかーってからまれて、ギイが毛深くなったらどうする、とかギイの色は何なんだとか・・・」 次第に声が小さくなる。 「何だそりゃ?色って何だよ」 「だからっ、えっと・・・の・・色・・・」 「はぁ?はっきり言えよ」 ギイがむっとした表情でぼくを睨む。章三も何なんだ、という表情でぼくを見ている。 ぼくは仕方なくギイの耳元に手を添えて、さっき矢倉が口にしたこと小声で伝えた。 「・・・こいつは何を考えてるんだ」 ギイははーっと肩を落とすと、もう一度、矢倉に蹴りを入れた。 「だから、ぼく一人で矢倉くんの相手するの、めちゃくちゃ大変だったんだからなっ!」 「想像はつく、ご苦労さん。けどなぁ託生、そんなの別に教えてやっても良かったのに」 「や、やだよっ、そんなの」 「いったい何の話だよ」 章三が訝しげに尋ねる。ぼくが止めるより早く、ギイはさらりとぼくが伝えたことを口にした。 とたん、飲みかけのスポーツドリンクを章三が吹き出した。 「何に興味持ってんだ、こいつは」 章三も呆れた顔ですやすやと眠る矢倉を見下ろした。 結局その夜は、酔いつぶれた全員がゼロ番で一夜を明かした。ベッドは野沢と吉沢が占領し、ソファを章三が使い、床には矢倉が大の字になって転がっていたので、ぼくとギイはくっついて、空いたスペースに小さく横になって眠った。 翌朝、そりゃもう身体のあちこちが痛かったし、頭もずきずきしたし、典型的な二日酔いで大変な目にあった。もうしばらくはこのメンバーで宴会はするまい、と心に誓った。 矢倉はぼくに言ったことを忘れているかと思いきや、ちゃんと覚えていた。 おかしな絡み方をしたことをぼくに詫びたものの、ちっとも反省してない風でギイに聞いた。 一番知りたがっていた例のことである。 「葉山がケチでさ、教えてくれないでやんの。もしかして知らないのか、って思ったぜ」 「そんなわけあるか」 嫣然と微笑んだギイに、矢倉は毒気を抜かれ、章三は心底嫌そうに舌打ちした。 ぼくは自分でも分かるくらい赤くなって、ギイの背中を一発殴った。 |