もうすぐ託生の誕生日である。
さて、プレゼントは何にしようと考えて、はたと思い出した。 そういえば、再会してから初めての誕生日じゃないか。 これは気合をいれなくてはいけない。 しかし、しばらく会っていなかったせいで、今、託生がいったい何を欲しいと思っているかが・・・ 「分からない」 その事実に低く唸る。 これは困ったことになった。 『は?葉山が何だって?』 章三がラインの向こうで聞き返す。 時差14時間。 日本は今朝の10時頃のはず。早朝でもなく真夜中でもなく、一応一番いい時間を選んだはずなのに、章三の機嫌はあまりよろしくないようだ。 「だから、誕生日なんだよ、託生の」 『ああ、2月だったな、そういえば。で?』 託生と再会してから、もちろんすぐに章三にも連絡を取った。 章三だけじゃなくて、祠堂にいた時に親しくしていた友人たち全員に。 それは託生からの提案・・というか半ば脅迫のようなものだった。 高校3年の秋、突然祠堂から消えてしまったことで、みんなにも心配をかけたし、何よりみんながオレのことを大切に思ってくれていたのだから、いろんな問題が解決したのなら、ちゃんとみんなに連絡をして、心配をかけたことを謝って、元気でいることを伝えて欲しいと託生に言われた。 託生は自分だけがオレに会えたことを申し訳なく思っていたのかもしれない。 もちろん、みんなにはそのうち連絡をするつもりではいたけれど、託生の言葉でそれは予定していたよりもずっと早く実現して、章三を始めとする友人たちからはあれこれと小言を食らい、説教もされたけど、最後には笑って許してくれた。 そのおかげで、こうして以前のように気軽に相棒に連絡をすることができるようになったのだから、やっぱり託生の言うことは正しかったと思える。 「だからさ、オレ、しばらく託生と会えてなかったから、あいつが今一番欲しいものが何なのか分からないんだよ」 『だからって、何でそれを僕に聞く?』 「何でって、章三は頻繁に託生と会ってたらしいじゃないか」 『まぁお前よりはな』 ちくりと嫌味を言われたが、今は腹を立てている場合じゃない。 第一、章三は託生のことを一番心配して、何かあるたびに声をかけては様子を見ていてくれたと聞いた。 そのことについては本当に感謝しているのだ。 「章三なら分かるんじゃないのか?ずっと託生といたんだし」 『おかしな言い方をするな。僕は葉山とずっといたわけじゃない』 用がないなら切るぞと言われて、待て待てと引き留める。 「頼むよ、章三。何かヒントだけでも。久しぶりに託生の誕生日をちゃんと祝ってやれるんだ。あいつが喜ぶものをプレゼントしたいんだよ」 そういうと、章三はふぅとわざとらしくため息なんぞついてみせた。 『あのな、ギイ』 「うん?」 『恋人のお前が分からないのに、僕に分かるわけがないだろ。だいたい、葉山は・・・』 言いかけた章三が何を思ってか黙り込む。 「章三?」 『とにかく、葉山の誕生日んは日本に戻るんだろ?』 「それはもちろん」 直接プレゼントを渡して、託生の喜ぶ顔が見たい。 『まぁせいぜい悩め。長い間葉山を放ったらかしにしてた罰だと思って』 「おい章三」 じゃあな、と無情にもラインは切れた。 章三とも久しぶりの電話だったというのに、この仕打ち。 仕方がない。 幸いなことに、託生と共通の友人はまだいるのだ。 オレはすぐさま次の番号へと電話をかけた。 『はい?』 「よ、政貴、元気か?」 『ギイ?めずらしいね、どうしたんだい?』 章三とは打って変わってご機嫌な声にほっとする。もっとも、政貴はいつだって穏やかで滅多に怒ることはない。 そういうところは本当に安心するし、尊敬もしている。 「なぁ政貴、最近託生に会ったか?」 『葉山くん?そりゃあ同じ大学だからね、時々会うし、話もするよ』 くそ、当たり前だとは思うものの、やっぱり悔しい。ああ、早く託生に会いたい。 「じゃあさ、最近託生が欲しがってるものとか、気に入ってるものとか、知らないか?」 オレの言葉に、政貴はしばし黙り込みそれから楽しそうに笑った。 『ギイ、誕生日プレゼントのリサーチかい?』 「あー、まぁそんなとこ。さっき章三に電話したんだけど、ぜんぜん協力してくれないんだよ」 『悪いけど、ギイ、俺もあんまり協力はできないよ』 何だって?どういうことだ? 『別に意地悪してるわけじゃなくて、葉山くんの誕生日なんだよ?誰かから聞いた情報でプレゼントを選ぶなんて、ギイらしくない』 きっぱりと言われてはぐうの音も出ない。 そりゃあ確かに少しばかり卑怯なことをしている自覚はある。 だけど、今回はあまりにも不利なんだよな、何しろ離れていた時間が長すぎる。 サプライズをしても大外れしそうで怖い。 『ギイ、そんなに悩まなくても、葉山くんはギイからのプレゼントなら何でも喜ぶと思うよ』 「だから困ってるんだろ」 『はは、まぁ頑張って』 じゃあねと政貴はあっさりと電話を切った。 駄目だ。 あとは・・・託生の親友の片倉とか・・・いやいや片倉は地元の大学に戻って年に一度会えるか会えないかだと言っていたし。それならオレと変わらない。 じゃあ矢倉はどうだろう。オレよりは託生と会っているだろうが、それでも託生の情報をそこまで知っているとは思えないし、知っていても教えてはくれないだろう。 いやだけど、もしかしたら・・・ とりあえずかけるだけかけてみるか、と電話してみると、案の定矢倉は最近は託生とは会ってないし、もし情報を持っていたとしても教えないと笑った。 そして八津と待ち合わせしてるからと言って、さっさと電話を切ってしまった。 まぁ想定内だったが、これで望みのありそうな友人たちからの情報は得られないことが確定してしまった。 「これは駄目だな。リサーチ失敗。いや、思い切って託生に直接聞いてみるというのもありか?いやないな。聞いたところで何でもいいとか、何にもいらないとか言いそうだしな、あいつ。いや、でもそれでもちょっと聞いてみても・・・」 さんざん迷ったあげく、バレないように探ってみるかと託生へと電話することにした。 何しろ究極に鈍い託生のことだから、欲しいものを聞いたとしてもそれが誕生日のリサーチさとは思わないかもしれない。 よし。 数回のコール音のあと、 『ギイ?どうしたの?アメリカってもう夜だよね?』 最愛の恋人はいつものように柔らかい声でオレの焦る気持ちを和らげてくれる。 いきなり欲しいものを聞くのはどう考えてもおかしいので、しばらくお互いの近況報告をした。 『あ、ギイ、ごめん。ぼくこのあと予定があって、もう行かなくちゃいけないんだ』 何だと。 いや、待て。まだ肝心なことを聞いていない。 「ちょっと待て、託生、なぁ、今何か気になっているものってあるか?」 『え?えーと何だろ、あ、某コンビニの海老ドリアがめちゃくちゃ美味しいって聞いたんだけど、まだ食べたことなくて、すごく気になってる』 はぁ?そんなの今すぐ買って食べればいいじゃないか! だからそういうものじゃなくて! と言いそうになったけれど何とか飲み込んだ。 「いや、託生くん、そうじゃなくて」 『なに?』 「だから、そういう気になってるじゃなくて」 『・・・もしかしてギイ、ぼくの誕生日のプレゼントのこと気にしてくれてるの?』 ずばりと言い当てられて口ごもった。少し会わない間に、何だか勘が鋭くなってないか? 託生は何だ、とからりと笑う。 『そんなの気にしなくていいよ。今週末、こっちに来るんだよね?じゃあ何か美味しいものが食べられるお店を見つけておいてくれればいいよ』 そんなの日常じゃないか。 だいたいそんなプレゼントってどうなんだ? 『ごめん、もう行くね。週末会えるの楽しみにしてる』 「あ、おい、託生」 どうやら本当に急いでいたようで、別れの余韻を楽しむこともなく、無情にも電話が切れた。 がくりとうなだれて、思わず携帯をベッドに放り投げた。 さて、どうしたものか。 サプライズをしたいわけじゃない。ただ、託生が喜ぶことをしたいだけだ。 みんなが言うように、たぶん何をしても、何をプレゼントしても、託生は喜んでくれるだろうとはわかっている。 だけどなぁ、せっかく再会してから初めての誕生日なんだぞ? 少しくらいロマンチックで感動的で・・・って・・・ そう考えて、ふと我に返った。 こういうのも、オレの勝手な独りよがりなのかもしれない。 託生が喜ぶ顔を見たいのは、ただオレ自身が満たされたいだけで、純粋に託生のことを思っているのなら、美味しい店を予約するだけでいいんじゃないだろうか。 それが例えばオレの望む形でないとしても、託生が喜ぶならそれでいいんじゃないか? 会えなかった時間を埋めようと焦るせいで、大切なことが見えなくなっていたのかもしれない。 「よし」 オレは枕元に置いてあったタブレットの電源を入れた。 NYも寒さに比べれば、日本の寒さはたいしたものではない。 けれど寒がりの託生はオレの恰好を見た途端、うわーっと声を上げた。 「ギイはいつでも薄着だよね」 「普通だって。今年は暖冬だしな」 「まぁ確かに割と暖かい方かな」 セーターと薄手のコートは、おそらく託生の中では春の装いなんだろう。 託生は相変らず隙のない防寒で身を包んでいる。 今日から1週間は日本でゆっくりできる。託生の誕生日にあわせてもぎ取った休暇だ。 託生は飛行機が到着する時間にあわせて空港まで来てくれた。 長時間のフライトも、こうして託生が迎えにきてくれていると思うとまったく苦ではない。 「あ、そうだ。ねぇギイ、今夜、みんなで一緒にご飯どうかな。ギイが戻ってくるならみんなで集まろうって、矢倉くんに誘われてるんだ」 「ああ、それは構わないけど・・・まさかそれって、託生の誕生日会とか言わないよな?」 「違うよ、みんなギイに会いたいから集まろうって、ぼくの誕生日はついでだよ、メインはギイ」 絶対に違うと思うぞ。 あいつら、オレが託生への誕生日プレゼントを悩んでいたのを知っているから、何を選んだかを知りたくて仕方ないに違いない。 だがまぁ託生の誕生日は明日だし、一足早くみんなでお祝いというのは悪くない。 日本にいる間は東京の実家に泊まらず、もちろん託生の住む部屋にお邪魔することになっている。 とりあえずいったん荷物を部屋に置き、夕方になると章三たちと合流をした。 居酒屋の個室に入ると、もう全員集まっていた。 「よぉ、ギイ」 「あ、葉山くん、やっと来た、こっちこっち」 「じゃあ飲み物頼もうか、すみませーん」 章三、矢倉、八津、政貴、といつものメンバーで、久しぶりに会っても、大げさな歓迎などはなくて、それがいっそ心地いい。 次々に飲み物が運ばれて、すぐに宴会が始まった。 乾杯の音頭は矢倉が取った。 「葉山、誕生日おめでとう」 「え?あ、ありがとう」 「明日だろ?一日早いけど今日はそのお祝いも兼ねてな」 乾杯とみんなでグラスを合わせた。託生はありがとう、と照れたように微笑んだ。 そのあとはしばらくお互いの近況を話しあった。章三は建築の勉強をしているところで、先月から建築事務所でアルバイトを始めたらしい。目指している職場を今から体験できるのはいい勉強になる、とどこまでも手堅い相棒に感心してしまう。 矢倉と八津も相変わらず仲良くやっているようで、今のところ喧嘩もせず順調だという。 政貴は相変らずのマイペースで音楽の勉強をしているようで、これでは駒澤が焦れていることだろうと想像すると笑ってしまう。 「そういえば、この前偶然松本先生に会ったんだよ」 八津が言うには正月に矢倉と初詣に行ったところで、ばったり出くわしたらしい。 殺人的な人混みの中で会うなんて、お互いびっくりしたことだろう。 「わー元気にしてた?松本先生」 託生が身を乗り出して尋ねる。 「元気元気。何も変わってなかったよ。松本先生に、ギイのこと聞かれたよ。再会したって言ったら、すごく喜んでたよ」 「ギイ、松本先生に連絡してないの?」 「あー、そっか・・してなかった」 ここにいる友人たちともう一度繋がれたのだって最近のことで、松本にまで考えが及ばなかった。 「ギイってば」 「今度ちゃんと連絡するよ。心配かけたしさ」 松本は祠堂にいた頃、本当に親身になってオレのことを心配してくれていたし、協力もしてくれた。 ちゃんと連絡しないといけないのに忙しさにかまけてうっかりしていた。 「で、ギイはいつまでアメリカにいるんだ?」 「いつまでって、オレ、一応アメリカで働いてるんだけどな」 苦笑気味に矢倉の問いかけに答えると、 「でもそのうち日本に戻ってくるんだろ?このまま葉山と離れ離れだなんて無理だろ、ギイ」 「そうだよなぁ、そうなんだよ、章三、さすが相棒、よく分かってる」 「そんなことはみんな思ってることだろ。なぁ葉山?」 「え?って、そういうのぼくに振らないで欲しいんだけど」 ちびちびとビールを飲みながら、託生が微妙な表情で口ごもる。 確かにこのままずっと遠距離だなんて考えていない。オレが日本に戻るか、託生がアメリカに来るかだけど、後者はなかなか難しいだろうから、オレが日本に戻る方が何かと簡単なはずなんだよな。 だけど今すぐってわけにもいかないし。 まだまだ先は長い。だけど、もちろん諦めるつもりはない。 「葉山くんがアメリカに行くとか。ギイを探すために留学しようって頑張ってたんだし、英語の勉強もしてただろ?」 政貴が言うと、託生は無理無理と手を振った。 「ぼくの英語力じゃアメリカで暮らすのは無理だよ。だいたいニューヨークって寒いし」 「それ!?」 託生の言葉に全員が笑いだす。 「そういえばギイ、葉山くんへの誕生日プレゼントは決まったのかい?」 「そうそう、めちゃくちゃ悩んでただろ?」 「そうなの、ギイ?」 みんなの揶揄いに、託生がびっくりしたように目を丸くする。 「何でもいいって言ったのに」 「分かってるけど、まぁそういうのを考えるのも楽しいからさ」 それは嘘ではない。 うん、確かに好きな人が喜ぶことを考えるのは楽しいことには違いない。 「ギイは完璧主義だからな。もっと肩の力を抜けばいいのに」 「矢倉は抜きすぎなんだよ」 こうしていると祠堂でバカ騒ぎしていた頃を思い出す。 あの時、急遽アメリカへ戻ることになった時は、もう二度とこんな風に笑いあうことはないだろうと思ったけれど、そうじゃなかった。 良かったなと思う。もう二度とこんなに気を許せる友達は簡単にはできないだろうから。 宴会が終わり、章三がまとめて会計をしている間、矢倉に声をかけた。 「矢倉、今日集まろうって声かけてくれたのは矢倉だろ?託生の誕生日もあるから」 「あー、まぁな。ちょうどタイミングが合ったからさ」 「ありがとな」 オレは章三たちと談笑している託生へと視線を向けた。 たぶん、託生はこんな風に大勢で誕生日を祝ってもらったことはなかったと思うから。 託生は自分からあれこれしゃべったりはしていなかったけれど、みんなの話をとても楽しそうに聞いていたし、たぶんこうして友達付き合いが続いていることを喜んでいるに違いない。 「何だか美味しいとこ取られた気がするのは気のせいか?」 オレが言うと、矢倉は気のせい気のせいと笑った。 「で、ギイ、誕生日プレゼントはどうしたんだよ?」 「教えるもんか」 「ケチだな」 「当然だろ」 店の前で解散しようということになり、じゃあまた今度日本に戻った時にな、と手を上げると、ちょっと待ってと政貴は託生を呼び止めた。 「葉山くん、誕生日明日だよね?」 「うん」 「改めておめでとう。で、これは俺たちからの誕生日プレゼント」 「え?」 政貴は白い封筒を託生へと差し出した。 バースディカード? 「そんな、いいのに。こうしてみんなでお祝いしてもらったし」 「いやいや、今年は特別」 開けてみて、と八津が託生を促す。 封筒を開けると、中から出てきたのは薄いカードキーだ。 「駅の裏手にあるホテル、予約してあるから」 「ギイが泊るような高級ホテルじゃないけどな」 「でもラブホテルでもないから」 「当たり前だろ、矢倉は一言多い」 「いや、でもいっそそっちの方が・・・」 ぽかんとしている託生に、八津が大丈夫?と苦笑する。 「葉山くん、ギイと会うの久しぶりだろ?おまけに明日が誕生日で。たぶん、誕生日当日はギイがさぞかし豪華なプレゼントを用意してるだろうけど、その前夜祭ってことで、ホテルでゆっくりしてよ」 矢倉ががしっとオレの肩へと腕を回して耳元で言った。 「ギイ、葉山へのプレゼントあれこれ悩んでたみたいだけどな、葉山が喜ぶプレゼントなんてめちゃくちゃ簡単なんだよ。葉山はギイと一緒にいられるのが一番なんだから、物じゃなくていいんだよ。頭いいくせに何で分からないかなぁ」 ひどい言われようだったが、言われてみればなるほどそうだし、だいたい託生が本当にそう思ってくれているのだとしたら、オレとしてはめちゃくちゃ嬉しいのだが。 「ギイ、顔がにやけてるぞ」 いかんいかん。思わず緩む頬を押さえてしまう。 「ま、せいぜいスペシャルな夜を楽しんでくれ。言っておくけど、ギイにとってじゃなくて、葉山にとってスペシャルな夜にしてやれよな」 「言われなくても」 じゃあそろそろ解散しようか、と政貴がみんなに声をかける。 「ありがとう、みんな」 託生が歩き出した友人たちに声をかける。 章三は渋い顔をしつつも軽く手を上げ、政貴と八津は自分のことのように満面の笑顔を見せ、矢倉はいつも通りちょっと悪戯っぽい目でしてみせた。 みんなが人混みへと紛れてしまうと、あーあとオレはその場にしゃがみこんだ。 「どうしたの、ギイ?」 「何だかなぁ、あいつらにめちゃくちゃ負けた気がしてならない」 「何言ってんだよ」 託生もオレの隣でしゃがみこむ。 「だってなー、託生が喜ぶもの、真剣に考えたんだけど、結局これだってものが見つからなくて、託生にまで聞いたってだけでも負け感半端ないのに、あいつらは託生が喜ぶものあっさりとプレゼントするしさー」 これはやさぐれてしまいそうだ。 すると託生はくすくすと笑って、オレの頭をぐりぐりと撫でた。 「馬鹿だなぁ、ギイ」 「何だよ」 「だってさ、そりゃみんながゆっくりできるようにって、用意してくれたこのプレゼントは嬉しいけど、だけど、それってギイが一緒だからだよ?ギイがいなくちゃ意味ないんだよ?だからさ、えーっと、つまり、ぼくにとってはギイが一番のプレゼントだってことだよ」 「・・・・」 「・・・恥かしいからそんなまじまじと見ないでくれないかな」 真っ赤になっているのは寒さからではないんだろう。 昔はこんな甘い台詞を口したりはしなかったというのに、ちょっと会わない間にどうしたことか。 いやでも、これはこれでやっぱり嬉しい。 何しろ遠距離恋愛真っ只中で滅多に会えないのだから、たまに会えた時くらい、恋人っぽいことを満喫したい。 オレは手を伸ばして託生の首筋を引き寄せると、ちゅっとその頬にキスをした。 「ちょっ、ギイ!」 「よし、早くホテルに戻ろう。せっかくのあいつらからのプレゼントを堪能しよう」 素早く立ち上がり、託生へと手を差し伸べる。 託生は少しの逡巡のあと、オレの手を掴んだ。 きゅっと掴んだ手は温かくて、それだけでも何だか嬉しくなったけれど、これじゃあまるでオレが祝ってもらう立場みたいじゃないかと思い直す。 「託生、オレの誕生日プレゼントも託生と一緒に過ごすっていうのがいいな」 「それくらいならお安い御用」 「ニューヨークにいると思うけど」 「お安い御用じゃなかった」 困った、と真剣に考える託生に目を細めて、繋いだ手に力を込める。 これから先の誕生日、遠距離恋愛をしている間のプレゼントはもう悩む必要はなさそうだ。 選ぶ楽しさもいいけれど、選ばないでいい安心感も悪くない。 そして、そんな気持ちにさせてくれた友人たちと託生がそばにいてくれることは、すごく幸せなことなんだろうなと思った。 |