せっかくの三連休だから、たまには二人でどこかへ出かけて一泊しようか、なんてことをギイが言い出したのは夕食のあとのことだった。 二人並んでキッチンで後片付けをしていた時に、ギイが突然言い出したのだ。 「え、三連休?」 「そう、来週。まさか知らなかったなんて言わないよな?」 「もちろん知ってるけど・・ごめん、ギイ、三連休はもう約束があるんだ」 洗剤を洗い流した食器を並べて水を切る。 二人で暮らし始めて1年近くたつので、そろそろ家事にも慣れてきた。 洗濯もまともにできなかったギイでさえ、最近では洗濯洗剤の使い分けまでできるようになった。 何でもその気になれば・・いや必要に迫れればできるようになるんだなぁとしみじみと思う。 「約束?そんな話してたっけ?」 「ううん、今日決まったんだよ」 「何があるんだ?」 ギイが食後のコーヒーの用意を始め、ぼくはその隣でギイが慣れた手つきでコーヒーミルを回すのを眺める。 凝り性のギイは最近お気に入りの豆を買ってきて、ミルで挽いてコーヒーを入れるが食後の習慣になっている。 確かにインスタントとは一味違って、間違いなく美味しい。でもギイが淹れてくれるのご相伴に預かるばかりで、ぼくは自分ではそこまで凝ったことはしない。 「うん、城縞くんがコンサートに誘ってくれたんだ。ずっと行きたかったんだけど、なかなかチケット取れなくて」 「城縞と?」 「そう。城縞くんも珍しく興奮気味でさ、今からすごく楽しみだよ」 「ふうん」 ギイの声色が少し不穏な感じになったのが分かる程度には、ぼくだって成長している。 ポーカーフェイスが得意だと思われているギイだけれど、案外そうでもない。 章三曰く、ギイは昔は無意識のうちにぼくに弱みを見せないようにしていたけれど、最近は進んで弱みを見せているんじゃないか、とのことだ。 まぁ進んで、とまでは思わないけれど、素直に感情を表に出しているなぁと思うことは時々ある。 はい、とコーヒーが注がれたマグカップをぼくに渡して、ギイはそのままキッチンを出ていく。 その素っ気ない態度に、何となく嫌な感じがして、ギイを追いかけた。 「ギイ、別に三連休全部ってわけじゃないし、一日くらい別にいいだろ?」 「もちろん、託生の休日なんだから好きにすればいい」 そういう言い方はどうなんだよ、と思わずぼくもかちんときた。 「だってしょうがないだろ、ギイとはまだ何の約束もしてなかったし」 「分かってるよ」 「でも怒ってるじゃないか」 「怒ってない」 ソファに座るギイ、ぼくは隣には座らず立ったままギイの見つめる。 怒ってはない、かもしれないけどどう見ても不機嫌だし。 たぶんこれは相手が城縞くんだからなのだ。 どういうわけかギイは城縞くん相手にはやけに過剰反応してくる。 確かに親しくしているし、音楽の話でも盛り上がるし、ギイとの会話の中でもよく登場してくる人物ではあるけれど、だからといって別に何があるわけでもないし、ギイが気にする理由がまったく分からない。 「コンサートは三連休の初日だし、あとの二日は何も予定は入ってないから、一泊で出かけることもできるし」 「そうだな」 上の空っぽい返事に思わずため息が漏れる。 「ギイってば、何でそんなに城縞くんのこと嫌うんだよ」 「いや、別に嫌ってはない、むしろすごいヤツだと思ってる」 「じゃあそんなに不機嫌な顔しなくてもいいだろ?」 「嫌ってはいないが、かといって、いい気もしない」 「ただの友達なんだけど」 「それも分かってる」 取り付く島もないのないギイに、ぼくもいい加減腹が立ってきた。 「ギイだって佐智さんと仲良くしてるじゃないか。それと同じだろ」 「はぁ?何でここで佐智が出てくるんだ」 心底意味が分からないという様子のギイに、ますます腹が立ってきた。 ぼくなんかより、ギイの方がよっぽど佐智さんと仲がいいし、知らない人が見たら恋人じゃないかと思ってしまうほどには距離が近い。 昔、頬にキスしてるところだって見ているし(挨拶だとか言ってたけど)、どう考えてもぼくと城縞くんよりギイと佐智さんの方が怪しいじゃないか。 「佐智はただの幼馴染だろ」 「それでも、どう考えてもぼくと城縞くんより、ギイと佐智さんの方が怪しいよ!」 ギイが一瞬怯んだように口を閉ざし、ぼうはそんなことを言ってしまったことにすぐに後悔をする。 別に本気で二人が怪しいだなんて思っているわけじゃないし、佐智さんがギイが心を許せる数少ない友達だってことも分かっている。 でも、分かっていても、もやもやする気持ちは今でもやっぱり少しはあるのだ。 ギイは何も言わずに立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。 「何だよっ、ギイってば!」 今までギイが座っていたソファにどすんと腰を下ろして、大きく深呼吸をする。 どう考えてもぼくが悪いとは思えない。そばにあったクッションをぎゅっと抱きしめ、苛立ちを何とかおさめようと試みるけれど、上手くいかない。 いったいどうしてこんなことになったのか。 ぼくが悪いのか? 「いや、今回ばかりはギイの方が悪い」 あーもー、絶対にぼくからは謝らないからな、と抱え込んだクッションを拳でひとつパンチした。 今までも喧嘩をしたことはある。 割と大きな喧嘩をしたことだってあるけれど、次の日にはちゃんと仲直りをした。 でも、どんな風に仲直りをしたのかと考えると、どうもはっきりしない。 何となくいつの間にか、という感じだろうか。 どちらが悪いということもなく、本当にタイミングが悪かったり、誤解だったり、そういうことで喧嘩した時は、さりげなくギイが仲直りのきっかけを作ってくれる。 何しろ曖昧にしておくのは嫌なギイなので、どんなことでもちゃんと話をしようというのが基本的なスタンスなのだ。 根っからの日本人気質のぼくにしてみれば、そういうのは苦手な部分もあるのだけれど、でも思いを口にしなければ相手にちゃんと伝わらない。 そりゃあ売り言葉に買い言葉的に、佐智さんのことを口にしたのは悪かったかなとは思うものの、最初に城縞くんとのことで勝手に不機嫌になったのはギイだし。 ちゃんと話しあいたかったのに、昨日のギイは無言のままその場から逃げ出した。 それはないんじゃないのか、ってそれもまた腹立たしい。 一晩たって、朝に顔を合わせてもおはようと言ったものの、何とも微妙な空気が流れていた。 とりあえず大学に行かなくてはならなかったので、仲直りのことは後回しにして家を出た。 自習室でバイオリンを弾いてはみたものの、気分が乗らないときにいい音が出るはずもなく、少し早めに切り上げて部屋を出ることにした。 「何だかなぁ」 今日はギイは家にいるはずだ。 たぶん、同じようにもやもやとしていて、どうやって仲直りをしようかを考えているに違いない。 少しは反省しているかもしれないし、いやでもぼくの方が悪いって思っているかもしれない。 ああ、結局そういうことは話し合わないと分からないんだよな。 ぼくがとぼとぼと校内を歩いていると、ふいに後ろから声をかけられた。 「野沢くん!」 「久しぶりだね、葉山くん」 久しぶりに会う友人に、それまでのもやもやも消えて嬉しくなる。 同じ校内にいても、なかなか顔を合わせることはない。 たまに見かけても少し目配せをするくらいで、ゆっくり話をする時間もなかったのだ。 「元気そうだね」 「うん、野沢くんも。相変わらず忙しそう」 「はは、忙しいのが普通になっちゃって、忙しいのかどうかも分からない時があるよ」 祠堂にいた時と同じだなぁと思ってほっこりする。 しばらく会っていなくても、きっと政貴は変わらずいるんだろうな。 「時間ある?良かったらお茶でもしない?」 「うん。うわー何だかすごく嬉しいなぁ」 「葉山くんにそこまで喜んでもらえるなんて、俺も嬉しいよ」 ぼくのあまりの喜びぶりに、政貴は少し困惑しているうように見えなくはないが、気にしないことにする。 実際、久しぶりに会えて嬉しかったのだから。 「学食にでもいく?」 「うん」 二人で少し離れた場所にある学食を目指す。 学食と言っても、ちょっと小洒落たカフェみたいな感じなので、いつも人で溢れている。 何しろ安いし、案外美味しい。 席についてあれこれとお互いの近状を話していると、祠堂にいた頃が思い出されて、あっという間に時間がたっていく。 「ところで、最近高校時代の誰かと会ったりしてる?」 政貴に聞かれてうーんと考える。 「赤池くんとは時々会うよ。あと、三洲くんもたまーに」 「そっか。俺も連絡したいなーって思いながらもついつい忙しさを理由にできてないんだよね」 「じゃあ今度みんなで会おうよ」 「いいね。ギイは?元気にしてる?」 「・・・うん、元気だよ」 うっかりおかしな間が空いたものだから、勘のいい政貴はおや、というように目を見開いた。 「何かあった?」 「まぁ、ちょっと喧嘩しただけ」 「珍しい」 そうでもないんだけどな、と軽く肩をすくめる。 「でもあのギイと喧嘩できるなんて、さすが葉山くん」 「あのギイって?」 「だって、ギイは人付き合いがめちゃくちゃ上手じゃないか。まず誰かと言い争ったりしない、そうならないように対応できるスキルは高いし、そうならないように意識もしてるし。でも相手が葉山くんだとギイは上手くやろうって思わないんだなぁって。あ、何ていうか、もちろん葉山くんだからこそ、喧嘩せずに上手くやっていきたいって思ってるだろうけど、でも他人に対して上手くやろうって発動するスキルは使わずに、本心でぶつかって上手くやりたいって思ってるんだなって。他人とはギイは喧嘩なんてしない、でも葉山くんとはする。それってすごいことじゃないか。やっぱりギイにとって葉山くんは特別なんだなって」 「そうなの、かな」 なるほど、そういう考え方もあるんだな。 確かにそうかもしれない。 そうだとしてもあの態度はどうなんだよ。 口には出さずあれこれ考えていると、政貴がふふっと笑いを漏らした。 「葉山くんも、ギイと一緒に暮らすようになって変わったね」 「え?」 「以前はそんな風にギイへの不満を表に出すことはなかった。いや、不満を持つこともなかっただろ?」 「そうかな・・」 政貴の言葉に首を傾げる。 ギイに不満なんて今でも思ったことはない・・でも、こんな風に「ギイってば」って思うことはやっぱり不満なのだろうか。 「不満ってほどのことじゃなくて、ただもうちょっとぼくの話を聞いてくれてもいいんじゃないかって・・」 あれ、やっぱり不満なのかな。 「やっぱり二人は一緒にいて正解だね。ギイも葉山くんも、祠堂にいた頃よりもずっと普通の恋人っぽくなってきてるから、見ててすごく安心する。ほら、あんまりにも完全なものってちょっとしたことで簡単に壊れちゃうだろ?ギイは葉山くんの前じゃ完璧でありたいってきっと思ってたんだろうけど、今は肩の力が抜けてきたんだろうな。うん、喧嘩もいいんじゃない?あえて理由は聞かないけど、そんなたいしたことじゃないんだろ?」 ずばりと言われては何も言い返せない。 まぁたいしたことじゃないと言われれば、そうなんだけど。 「野沢くんのところは、喧嘩した時はどうやって仲直りしてるんだい?」 参考までに聞いてみると、政貴はうーんと考えた。 「とりあえず謝るかな。ほら、どちらかというと駒澤の方が繊細でちょっとしたことを気にするんだよね。俺の方が大雑把だから知らないうちに不本意なことをしてることも多くてさ。俺の無神経さが原因なこともあるんだろうなって」 そうだった。優し気な外見と反して、政貴はなかなかに神経が太かった。 だけどさっさと自分から謝ってしまうだなんて、大人だなぁと思った。 ぼくも政貴くらい図太くいた方が、こんなちょっとしたこと怒らなくてもいいのかもしれない。 また近々ギイと三人でご飯でも、と約束をして学食をあとにした。 さて、帰ったらギイは何を言ってくるだろうか。 仲直りしたい気持ちは同じなはずだから、できるだけ早くちゃんと話し合いたいけど。 帰り道、ふと目についたケーキ屋の前で足を止める。 食べ物で懐柔・・と思われたくはないけど、でも話のきっかけにはなるに違いない。 ギイ、甘いもの好きだしなと思い、知らずと笑みが浮かんだ。 昔っから食欲魔人なギイだけど、さすがにこの歳になるとそこまで大量に食することはない。それでもぼくと比べればまだまだ大食漢だ。 ギイの好きなシンプルなチーズケーキ。 よし、こういうので話のきっかけになればいいんだし、これは別に懐柔じゃない。よし。 ぼくは店に入り、ショーケースの中に目当てのケーキを探した。 小さなケーキの箱を片手に家に戻るとギイはいなかった。 何だかちょっと拍子抜けしてしまった。出かけるなんてことは言ってなかったんだけどな・・・ってそう言えば今朝はろくに話もしてないんだった。 ケーキは冷蔵庫に入れないとダメかなと思いながら上着を脱いでいると、ギイが帰ってきた。 「あ、おかえり、ギイ」 「ただいま」 ぼくが帰っているとは思ってなかったのか、ギイは一瞬驚いたような表情をして、テーブルの上のケーキの箱にさらに目を見開いた。 甘いものはそれほど得意なぼくじゃないので、どう見てもあれはギイのために買ってきたものだと分かるだろう。 何も言わずにケーキの箱を眺めていたギイは、手にしてい袋をぼくへと差し出した。 「なに?」 「おみやげ」 「?」 袋の中を見ると、ぼくの好きな店の和菓子が入っている。塩大福。ぼくが前に食べて美味しいと言っていたものだ。ギイはギイで、ケーキの箱を開けて中に大好きなチーズケーキが入っていることに微笑んだ。 お互いがお互いの好きなものを買ってきて、これで仲直りしようと考えていることまで同じで、何だかそれだけでもういいかといういう気になってくる。 「えーっと、おやつにしようか?」 「そうだな、コーヒー入れるよ」 まだ少しぎくしゃくとしながらもいつもの通り二人でお茶の用意をした。 「ギイ、どこ行ってたの?」 「どこって、あれ買いに行ってたんだよ」 「駅前まで?」 「そう」 わざわざ塩大福買うためだけに出かけるだなんて、感動しつつもちょっと笑ってしまう。 ギイはぼくが買ってきたケーキを、ぼくはギイが買ってきた塩大福をお茶請けにすることにして、テーブルについた。 「昨日はごめん」 コーヒーを一口飲むなり、ギイが言った。 「あ、えっと、ぼくもごめん」 「いや、オレが先に嫌な態度だったし」 「そうだよ!ギイってば城縞くんにヤキモチ妬くなんて変だよ」 思わず叫んで、しまったと思った。せっかくお互いが歩み寄っているというのに、こんな言い方したらまた喧嘩再発になりそうだ。 だけど、さすがはギイというべきか、ぼくの不要な発言に怒ることはなかった。 「しょうがないだろ。何しろ城縞だし」 「何それ」 「託生だって佐智のこと持ち出したじゃないか」 そうだけど。でもぼくの城縞くんとギイの佐智さんとじゃ全然違うと思うんだけど。 しばらく二人しておみやげのスイーツを食べることに専念していたけれど、おもむろにギイが言った。 「お前、佐智のこと大好きなくせに、昔っからオレと佐智のこと疑ってるよな」 「疑ってなんてないよ。佐智さんにはちゃんと恋人がいるんだし」 「だろ?だからオレとおかしなことになんてなるわけないんだって。でも城縞には恋人がいるわけじゃないし、あいつ、絶対託生に気があるし」 「ないよ」 「そりゃ付き合いたいとかそういうことじゃないかもしれないけど、託生のこと気に入ってるのは間違いないし、いや、それを言い出したら全員そうかもしれないけど」 全員って、ギイはいったい何を言ってるんだろう。 惚れた欲目も甚だしい。 ギイじゃあるまいし、ぼくはそんなにモテたりしないんだって、何回言えば分かってもらえるのか。 「あのね、ギイ、そんな風にヤキモチ妬いてくれるのは嬉しいけど、いやすごく嬉しいかと言えばそうでもないけど、でもまぁギイがぼくのこと好きでいてくれるんだなぁっていうのは嬉しいんだけど、ぼくが好きなのはギイだけだし、今さら他の人に何言われても何とも思わないよ。万が一、ぼくのことを誰かが好きになったとしても、だから何なんだよ。問題はぼくの気持ちだろ?ぼくの気持ちが揺れることはないんだから、何も心配することないだろ」 口にしてしまったあとで、何とも熱烈な告白っぽくなってしまったなぁと思ったものの、それこそ今さらな話なので、ぼくはもぐもぐと塩大福を食べた。 「なるほど」 チーズケーキの最後の欠片を口にして、ギイはまんざらでもないようにうなづいた。 「託生がオレのことをちゃんと好きでいてくれてるのは分かってるよ」 「よかった」 「だから、オレだって別に本気で託生が城縞とどうこうなんて思ってないんだけどさ、まぁ相手が城縞じゃなきゃ何とも思わなかったかもしれないし」 「何で?」 「あいつがいいヤツだって分かってるからさ、おまけにオレと違って音楽の話もできる相手だろ」 軽く肩をすくめるギイに、今度はぼくがなるほどとつぶやいた。 そりゃあ同じ音大に通っている仲間なんだから音楽の話が弾むのは当然だし、ギイはあんまり音楽には詳しくないけど、だからといって、そんなことくらいでギイへの気持ちが他へ移るなんてことはないんだけどな。 でも城縞くんがいい人だから心配だっていう気持は分からないでもない。 ぼくだって佐智さんがすごくいい人だって分かってるからこそ、もやもやしてるんだろうし。ああ、難しいな、こういうのは。 「託生のことも、もちろん信じてる」 「うん」 「だからまぁ、ヤキモチもあるけど、単なる独占欲だったのかもしれないなって。昨日あれから考えて反省した」 「独占欲・・・?」 まさかそんな台詞をギイが言うなんて。 だって、じゃあぼくが佐智さんに対しての感情も、同じように独占欲なのかなって思うと、猛烈に恥ずかしくなる。 ヤキモチ妬かれるより何だかずっと恥ずかしい。 ギイのことを独占できないからモヤモヤするなんて、それってあまりにもおこがましいというか、贅沢というか、だいたい独占欲でもやもやするって、ギイはぼくのものだって思ってるってことだよね。 いやいやいや、それはあまりにも子供っぽい。 いい歳してこんなことではいけない。ギイだって反省してるくらいだし。 ぼくもギイと佐智さんのことでおかしなヤキモチを妬いちゃダメだな。反省しなくては。 「だからな、こんなことくらいでヤキモチ妬いてるようではまだまだだなって、反省したわけだ」 「え?」 ギイの言葉にうん?と首を傾げる。 「託生のこと独り占めしたいって思うのは、まだ足りてないってことだろ?ここのところお互い忙しくていちゃいちゃする時間も少なかったし、そういう託生不足から城縞に対してもおかしな感情を持ったんだろうなって思うわけだよ」 「・・・??」 「だからしっかりと反省して、もっと親密な時間を取ろうと・・」 「ええ、ちょっと待って、ギイ。何だか反省の方向がおかしい!」 「おかしくないだろ。どうすればヤキモチ妬かずにすむかって話だろ?」 そ、そうなのかな?? ぼくがギイと佐智さんの仲にヤキモチ妬かないためには、ぼくがギイともっと親密になればいいってこと? それは、確かにそうなのかもしれないけど・・ ぐるぐると考えていると、ギイはちょっと笑ってぼくの手を握った。 「まぁ託生にヤキモチ妬かれるのは悪い気はしないけど、ヤキモチ妬くのはしんどいしな。喧嘩するのも嫌だし、だからさ、託生くん、今夜はお互い独り占め欲求を十分満たして、ヤキモチ妬かないようにするっていうのはどうだろう」 果たしてそんなことで子供っぽいヤキモチは妬かなくなるのだろうか。 ギイの提案にいったいどれくらいの効果があるかは分からないけれど、試してみる価値はあるのかもしれない。 きゅっと握られた指を握り返す。 「ギイの言うことに間違いはないからね」 「そうそう」 「でもあんまりいちゃいちゃしすぎて、飽きられるのは嫌だな」 それくらいならヤキモチ妬かれた方がずっといい。 「そんな心配する必要ないだろ?」 見惚れるほどの綺麗に笑顔にうっかり照れてしまった。 長い付き合いになっているというのに、こんなに好きでいていいものなのだろうか。 喧嘩したって、結局最後はこんな風になってしまうし。 政貴のいう「普通の恋人」たちは、どうなのだろう。 もしかしたら少し違っているのかもしれないけれど、ぼくたちはこれでいいんじゃないかと思うし、ずっとこんな感じでいられたらいいなと思う。 |