※今回R18描写あります。 ※ギイ託にエロは不要という人はご遠慮ください。 ベッドから起き上がると、いつもしばらくぼんやりとしている。 やがて二度寝の誘惑を振り切ってベッドから抜け出すと、クローゼットを開け、のろのろと制服のシャツを取り出す。 パジャマの袖から腕を抜くと、上半身が顕になる。 薄い肩。すんなりと伸びた背筋。華奢な腰。 決して女性的ではないのに、それでも妙な色気を感じてしまうのは、恋人の欲目だろうか。 ふわりと羽織ったシャツのボタンを俯き加減に留めていく。けっこうな時間をかけて。 何でもっと素早くできないんだろうなぁといつも不思議に思う。 パジャマの下衣を脱ぐと、すらりとした脚が現れて、思わずじーっと凝視していたら、その視線に気づいた託生が振り返った。 ばっちりと目があって、ぎょっと託生が身を引いた。 「おはよう、託生」 「・・・お、おはよ・・・って、なに見てるんだよ」 「んー、託生の着替え?」 「き、着替えって、何だよっ、見るなよ、そんなのっ」 ギイのスケベ、と託生があたふたと制服を身に着ける。 「別にいいだろ。オレと託生の仲で、今さら恥ずかしがることないじゃんか」 「恥ずかしいだろっ」 「お前、体育の授業の時に普通に着替えるくせに」 「あれはみんな一緒だし、ぼくの着替えなんて誰も見ていないだろ」 「オレ見てるけど」 「・・・っ!」 託生は顔を真っ赤にすると、 「もうギイの前では着替えないっ」 と、ばたばたと洗面所へと駆け込んだ。 章三ならば「お前は乙女か!」と突っ込むところだろうが、生憎託生はオレの大事な恋人なので、ただただ可愛いとしか思えない。 「さて、ご機嫌直しに行くか」 ベッドから起き出して、何となく顔がニヤけてしまうのを何とか引き締めつつ、託生が消えた洗面所の扉を叩くのだった。 と、いうようなことが昔あったなぁ、と、ベッドから起き上った託生がぼんやりしているのを見ていて、思いだしていた。 あの時は、託生の着替えをこっそり見ていたせいで、あとでさんざん文句を言われた。 すでに恋人同士で、もちろんちゃんとセックスもしていたというのに、どうして着替えを見られたくらいであそこまで嫌がるのかまったく分からなくて、あのあとも説明を求めたが納得できる答えは返ってこなかった。 あれから数年。 祠堂の寮ではその狭さゆえ、不本意ながらも別々のベッドで眠っていたけれど、今は広いベッドで一緒に眠っている。 一緒に暮らすようになって何が幸せって、先に目覚めた託生がオレを起こさないように気をつけているのが分かるほどの近さで夜を過ごせることだろう。 けれど、どれだけ託生が気をつけていても、人の気配に敏感な性質なので、すぐに目が覚めてしまうのだ。託生が気にするから、今も先に目覚めた託生に気づかれないように眠っているふりをしていた。 託生は起き上がった体勢のまま動かない。 低血圧というわけでもないので、ぼーっとしてるのは単に寝不足のせいだろう。 いつもオレより起きるのが遅い託生が、こんなに早い時間に起きだすなんて珍しいなと思い、何となくこのまま託生の様子を伺うことにした。 しばらく動かなかった託生は、ふと何かに気づいたように身を屈めると、目を閉じたオレのこめかみにキスをした。 (起きてるときには自分からキスなんてしないくせに、どういうつもりだ、このヤロー) と、思ったがぐっと我慢した。 愛おしむように髪をさらり撫でられ、それだけで今すぐ起き上がって抱きしめたい衝動にかられたが、もう少し様子を見ることにした。 託生はしばらくオレをじっと見つめていたが、やがておもむろに腕を伸ばして、ベッドの上をごそごそと何か探し始めた。 (ああ、シャツ探してるのか?) 昨夜、2人していい雰囲気になってベッドに雪崩れ込んだ。 託生のシャツはオレが脱がして・・・ああ、床の上に放り投げたんだった。 託生はベッドの上にシャツがないことに気づくと、少し考えたあと、オレがシャツを放り投げたことを思い出したらしく、むっとした顔をして上半身を捻って床へと腕を伸ばした。 綺麗な白い背中がオレに向けられる。浮き出た肩甲骨や腰のライン。少年の域はとっくに過ぎているのに、まだ青年の身体つきには見えない。そんな託生の裸を見ていると、昨夜さんざん愛し合った記憶が甦り、下半身が疼いた気がした。 シャツを掴んだ託生がそのままベッドを降りようとするのが嫌で、寝ぼけたふりをして託生の腰に腕を回した。 託生はぎょっとしたように振り返り、けれど眠るオレを邪険にもできないようで、どうしようかなと困っているのが手に取るように分かった。 やがて託生がオレの手首を取る。 ゆっくりと起こさないように気をつけながら、腰からオレの手を解いていく。 そのまま毛布の中に戻されるかと思っていたのに、託生はオレの手を持ち上げると、その指先に口付けた。ちゅっと音をさせて触れた唇がふっと笑ったことに気づいたとたん、オレの中のなけなしの理性は音を立てて崩れ去った。 片肘をついて上半身を起こすと、腕を伸ばして託生の肩を掴みベッドに引きずり倒す。 「う・・わっ」 いきなりベッドに引き戻された託生は、驚きで目を丸くしてオレを凝視した。 「ギ・・・ギイ・・起きてたの?」 「起きてた」 「なに狸寝入りしてるんだよっ!!悪趣味だろっ!!」 眠ったふりのオレにしていたことを思い出してか、託生は頬を染めてオレの腕から逃れようと身をひねる。 だが、そうそう簡単に離すつもりはない。だいたい煽ったのは託生の方だ。 「お前がオレにいろいろいたずらするから、その気になった」 「は?ぼくがいついたずらしたって言うんだよっ、もう、ギイ離せよ、シャワー浴びるんだから」 逃げようとする託生の上に圧しかかって、腰を引き寄せる。 まだ寝起きの熱の残る託生の首筋に顔を埋めると、ふわりといい匂いがした。 コロンも何もつけてないくせに、託生はいい匂いがする。いつもオレをうっとりとさせる匂いだ。 「しよっか、託生」 託生は大きく目を見開くと、キスしようとするオレの頬を必死で押し返してきた。 しよう、というのがキスだけじゃないことに気づいたらしい。 それにしても、仮にも最愛の恋人に対してどうしてこういつも拒絶するのだろうか。 愛情疑ってしまうぞ、こら。 「託生・・・したい」 耳朶を舐め上げて自慢のレインボーボイスで低く囁くと、とたんに託生の体温が上がったのが分かった。 まるで初めて求められたかのように頬を赤らめる。 いつまでも慣れないのはどうしてなんだろうな、と笑いが洩れる。 「朝はいろいろ刺激的だし、まだ早いから時間もあるし・・」 「な、何馬鹿なこと言ってるんだよっ、昨夜さんざん・・・っ」 ゆるゆると腰のラインを辿り、その手を下肢へと滑らせると、託生は慌てて身を捩ってオレから逃れようと無駄な抵抗を繰り返した。 「ギイっ!!」 「んー、まだ時間あるだろ?」 「そういう問題じゃない」 「じゃどういう問題だよ」 真上から託生の目を覗き込むと、目元を赤く染めて、託生が言葉に詰まる。 「あ、朝なのに・・・」 「何だ、そりゃ」 朝からセックスしちゃだめだって誰が決めたんだ。 そんなつまらない理由は却下して、ゆっくりと託生に口づけた。 舌先で閉じた唇の合わせ目をくすぐると、やがて諦めたように薄く開いてオレを受け入れてくれる。 深く咥内を探り、舌を絡め、何度も何度もきつく吸い上げると、託生は息苦しくなったのか、オレの肩を軽く叩いた。 「ん・・・っぅ・・」 腰骨のあたりを彷徨わせていた片手をそのまま内腿へ移動させて、片足を抱え上げるようにして脚を開かせると、託生はぱっと目を見開いて、オレの手首を掴んだ。 「やだ、ギイ・・・」 「オレはしたい」 「ぼくの意思は無視かよ」 「でも、託生だってしたくなっただろ?」 潤んだ目をして、キスだけで息を乱して、何より身体が逃げてない。 図星を指されて拗ねたのか、ぷいっと託生がそっぽを向く。昔と同じ子供じみた仕草は、オレの中の何かをいつも刺激する。 「お前、何だってそんな可愛いことばっかするんだよ。・・だから、したくなるんだろ」 「勝手なこと言うなよ、ちょ・・っ、駄目だって・・・」 形を変え始めた屹立に人差し指でつうっと触れると、託生は手の甲で自分の口元を押さえた。 そのまま奥へと指を這わせ、昨夜何度も熱を注ぎ込んだ場所に触れてみる。 「んっ・・・」 「力抜いて、託生」 嫌だというように顔を背けた託生だけれど、ほんの少し力を入れただけで、託生のそこは何の抵抗もなく指を飲み込んだ。 昨夜・・といってもほとんど朝方まで繋がっていたのだから、それも当然といえば当然だ。 「すごい・・・託生の中、熱いな・・・寝起きだから?それに中も濡れてる・・・」 「ちがっ・・・ギイが・・昨日・・・何度も・・」 くちゅっと音をさせて中から溢れてきたものに、オレはああそうだった、と気づいた。 「そっか・・オレ、昨日託生の中でイっちゃったもんな」 「・・・・っ」 「何回したか覚えてる?」 託生は泣きそうな顔で、ふるふると首を横に振る。 「嘘つき、覚えてるだろ?」 ぐるりと中を掻き混ぜるようにして動かしてみると、昨日託生の中に放ったものがとろりと溢れてくる。 「オレ、託生が何回イったか覚えてるぜ」 「も・・そういうこと・・言うなって・・・」 「なぁ、オレが託生の中で何回イったか覚えてる?」 「しら・・ないっ・・」 知らないわけないだろ。 言うまで許さないと意地悪く言うと、託生は低く唸ってオレを睨みつけた。 「・・・・・かいっ」 「ん?」 「さ・・んかい・・っ、ギイ、三回・・も・・・」 「うん、オレ、託生の中に、三回も出しちゃったもんな」 そりゃとろとろにもなるわけだ。 ああ、それで朝早くからシャワーが浴びたかったのか、託生は。 けれど、そんなもったいないことさせるわけにはいかない。 「あっ・・ギイ・・・っ」 二本に増やした指をゆっくりと抜き差しさせてみる。溢れてきた生暖かい蜜が内腿を伝う感触に、託生はひゅっと喉を鳴らした。 「あぁ、すごい・・・託生・・どろどろになってる」 「ギイのせい・・だろっ・・やだ、って言ったのに・・・っ」 「だって託生・・・」 指を抜くと、託生は強張らせていた身体を弛緩させた。開いた脚を閉じさせないようにと膝を差し入れて、濡れた指で下腹部に触れると、託生は小さく声を上げた。 「オレが何回託生の中でイってもさ、次の日には綺麗に洗い流されちゃうだろ?オレの熱とか匂いとかぜんぶ託生の中からなくなっちまうんだなぁって思ったら悔しくなったんだよ」 いつもなら避妊具をつけて、中で出すなんてことはしないのだけれど、昨夜は何だか我慢できなかった。 最近新鋭のバイオリニストとしてその名が知られ始めた託生は、あちこちから演奏の依頼が舞い込むようになり、毎日オレ以上に忙しくしている。 交友関係が広がるのは喜ばしいことだし、付き合いに時間が取られることも別に不満に思うことはないのだけれど、託生はオレのものだという印を残したくなったのだ。 白い肌に口づけて残す証だけでは物足りなかった。託生の身体の奥深くにもオレの印を残したかった。 ゆるゆると与えられる刺激に託生は眉をひそめ、それでもオレの頬に手をやると、しょうがないなというように小さく笑った。 「ギイ・・・ぼくはギイのものだろ。そんなことしなくても、ぼくはギイのもの」 「・・・・」 「それに、全部綺麗になくなったら、またすればいい。何度でも、ギイはぼくにそうしていいんだよ?」 託生の言葉に、かっと胸の奥が焼け付いたような気がした。 自分が言ってることの意味が分かっているのか、と時々問いただしたくなることがある。 当たり前のようにあっさりと口にすることが、どれほどオレを煽ってるのか分かってるのだろうか。 あとで文句ばかり言うくせに、その原因は自分にあるのだと分かっているのだろうか。 そうしていい、と言う託生の言葉通り膝をすくいあげて、性急に猛った熱をそこに押し当てた。 狭い最奥を開かせてゆっくりと腰を進めると、託生はふっと息を吐いて背を反らせた。 「あ・・・っ・・・」 「力抜いて、託生・・・」 どれほど回数を重ねても、その瞬間、託生は痛みに耐えるようにぎゅっと目を閉じる。 指を絡めて、労わるように何度もキスを重ねる。 奥まで届くように、小刻みに揺すっては進めていくと、託生はちゃんとオレのことを迎え入れてくれた。 「ギイ・・・あっ・・・や・・・」 「あんなにしたのに、中、すごくきつい・・・」 「んっ・・・はぁ・・・も・・無理・・・」 「まだ入るよ。ほら・・」 ぐっと腰を突き入れると、託生はびくりと身体を震わせた。眦から流れた生理的な涙を舌で舐め取って、託生が落ち着くのをじっと待った。 暖かく締め付けてくる感触が心地よくて、すぐにでも動きたい衝動に駆られたけれど、どうせなら託生にも気持ちよくなって欲しい。 しばらく動かずに優しくキスだけを繰り返していると、やがて託生が耐え切れずに口を開いた。 「ギイ・・・っ」 「ん?」 「・・・・っ」 何もしないオレに恨めしそうな視線を向ける。 託生が求めてるものが何なのかなんて十分わかっているけれど、ちゃんと言葉にして言って欲しい。 オレが欲しいと託生の言葉で言って欲しい。 首筋をきつく吸い上げて赤く印を残すと、託生の背に腕を回して繋がったまま上体を起こした。 「やっ・・・」 「ほら、奥まで入った・・」 オレの脚にまたがるように向かい合って、託生はさらに奥深くにオレのものを飲み込んでいく。 それでもまだ動かずにいると、託生は大きく息を吐いてぎゅっとオレの首に両腕を回した。 「お願い・・・ギイ・・・っ」 「うん?」 「・・・・いて」 「ちゃんと言えよ、どうして欲しいか」 「何で、そんなに意地悪ばっかり・・・っ、あっ・・・」 「だって、託生可愛いから」 どういう理由だよっ、と託生が思わずといった風に吹き出した。くすくすと笑うその振動さえも、繋がった部分を刺激してたまらなくなる。 「託生・・・このままでいいのか?」 「・・・・」 「ずっと繋がったままってのもちょっといいけどな」 オレの言葉に託生はふるふると首を振る。やがてぴたりとオレの肩先に頬を乗せて、 「・・・ギイ・・・も・・う・・動いて・・っ」 と、小さく囁いた。 甘く強請られるままに、下から突き上げた。ゆるゆると強弱をつけて揺すり上げると、託生は唇を震わせてせつなく喘いだ。そして、すぐにきゅっと唇を噛み締める。 感じ始めるといつもそうやって唇を噛むのが託生の癖だ。それをやめさせるように、合わさった唇を舌先で舐めた。 「気持ちいい?」 「・・・っ・・」 「声、聴かせて・・・託生」 「あっ・・・う・・・」 一度声が出ると止まらなくて、突き上げるたびに託生はすすり泣くような嬌声を零した。 大きく胸を喘がせて、そのくせ与えられる快楽に必死に耐える姿がたまらなく扇情的で、昨夜あれほど愛し合ったというのに、すぐにでも解き放ってしまいそうになる。 「ギ・・ィ・・・・っ・・んん・・・っ」 先端から蜜を溢れさせる託生の屹立に指を絡めて、上下に擦る。 「やめ・・・て・・・ギイっ・・・・」 「どうして?気持ちよくない?」 「ちが・・っ・・・だ・・って・・・」 くちゅっと音をさせて弄るオレの手を託生が押さえる。 「駄目・・・だって・・・」 「気持ち良すぎて、イっちゃう?」 「んっ・・・んぅ・・・」 こくこくとうなづいて、託生はオレの肩先に爪を立てた。 きゅうっと締め付けられて達しそうになる波をやり過ごすために、オレは律動を緩めた。 「イっていいよ、託生」 手の中で熱く昂ぶる託生のものを責め立てると、やがて託生はくっと喉を鳴らして目を閉じる。 我慢する意味なんてどこにあるのか。 気持ちよくなるためにしてることだから、素直に身を任せればいいのに。 「好きだよ、託生」 腰を引き寄せて、託生が一番感じる場所を突き上げると、その瞬間、堪え切れなかった蜜がぱっとオレの下肢に飛び散った。 「は・・・っ・・ぁ・・・」 達したばかりの先端を丸くなぞると、残滓がとろりと溢れ出した。 荒い呼吸を繰り返して脱力する託生の首筋に唇を寄せ、汗ばんだ肌を舌で舐め上げる。 緩めていた律動を再び激しいものへと切り替えると、託生は泣きそうな顔をしてオレを見つめた。 「ギイ・・・っ」 「オレのことも気持ちよくして、託生・・・」 言うと、託生は少しの躊躇のあと、オレの動きに合わせて腰を上下させた。 キスしてと強請ると、欲しいと思っている通りのキスをしてくれる。 濃厚で、甘くて、官能的なキス。 もう何度もこうして身体を繋げているのに、その度に初めて味わうような快楽に眩暈がしそうになる。 お互いの好きなことも、一番感じるところも、全部知り尽くしていて、こうして身体を重ねることが当たり前で。オレが望めば、託生はいつだってすべてを受け入れてくれるというのに。 それなのに、自分でもどうかしていると思うほどに、託生のことが欲しくて仕方がない。 まるでそうしなければ託生を自分のものにできないかのように。 「託生・・・なぁ・・・言って?」 「な、に・・・?」 「オレのこと、好きって言って?」 その言葉に託生はふわりと笑い、オレの前髪をかき上げて額にキスをした。 「好きだよ・・・ギイ・・」 「・・・・」 「愛してる・・・」 言い終わらないうちに、託生の身体をもう一度ベッドへと押し倒した。 胸につくくらいに脚を押し上げて、位置を変えるように腰を入れなおすと、託生はぼんやりとした瞳でオレを見上げた。無意識のうちに閉じようとする脚を押しとどめる。与えられる快楽に身を任せる託生を見下ろしながら、思うままにひくつく奥を穿った。 「ああっ・・・ん・・っ・・・も、いや・・・」 託生の膝に手をかけてさらに大きく左右に割り開き、上体を倒してキスをした。 がくがくと揺さぶられる託生は涙目でオレを睨んだ。 「も、いいから・・・っ」 早くイって、と小さく託生がつぶやく。 それでなくても昨夜さんざん抱き合っている。過ぎる快楽は辛いだけだ。 可哀想だと思う気持ちと、もっと泣かせてみたいという気持ちが交差して、何だかひどく残酷な気持ちが込み上げた。 力の入らない託生の膝頭にキスをして上体を起こすと、ぐっと深く腰を入れてみる。 「中で、って言って、託生」 次第に突き上げる速度を上げながら言ってみる。心地よさに声が掠れているのが分かった。 託生はどこか虚ろな瞳でオレを見返している。言われたことがちゃんと理解できていないのかもしれないと思って、もう一度言ってみる。 「中でイって・・って、言ってみて?」 「や・・・だっ・・・何言って・・・」 「オレの印、託生の中に残したい」 「・・・・っ」 託生は馬鹿と小さく吐き出すと、身体の奥に飲み込んだオレ自身をきつく締めつけた。 もっていかれそうな快楽に思わず小さく呻いたオレに、託生はふっとどこか不敵な笑みを見せた。 こういう表情の託生が一番やばいことを、最近オレは知った。 開き直るというか、大胆になるというか、オレが思いもしないようなことをするからだ。 託生はオレの首に手をかけて引き寄せると、舐め取るようにしてオレの唇にキスをした。 唇が離れると、吐息のような声で託生が言った。 「・・・出して、ギイ」 「・・・・」 「ぼくの中・・・ギイので濡らして?」 「・・・っ」 甘く誘う声に我慢も限界を超えた。 狂ったように激しく揺さぶって、そのまま託生の中に解き放つ。 背筋を駆け上がる快楽に動けなくなり、ああ、とため息が漏れた。 熱い迸りを身の内に感じて、託生もまたぱたぱたと蜜を零した。 もう何度目になるか分からない快楽の証は、さらりと肌を滑り落ちた。 「だいたい、朝からする必要あるのかな。夜でいいと思うんだけど」 2人で入ってもまだ十分余裕のあるバスタブの中で、託生はさっきからぶつぶつと文句を言っていた。 くたくたになった託生の手を引いて、お詫びといって綺麗に身体を洗ってやった。 おかしなことしたらしばらく触らせないからね、と託生が睨むので、浴室では本当に邪まなことはしなかった。 向かい合わせに湯に漬かっていると、疲れた身体が癒されていくのが分かる。 「朝からなんて、疲れるだけだろ」 「いや、むしろ朝したくなるのは当然なんだって」 「どうして?」 託生は訝しそうにオレを眺める。 「性欲を高めて、快感をもたらす「テストステロン」ってホルモンの分泌量が、もっとも高くなるのが朝なんだってさ。だから夜するよりも、朝した方が興奮する」 「・・・それ、本当の話?」 「何で嘘つく必要があるんだ、よっ・・と」 ぱしゃんと水鉄砲のようにして、託生へと湯をかける。 まともに顔をかかった託生は、よくもやったな、と同じようにオレへと湯をかける。子供みたいに何度か湯の掛け合いをして、浴槽に頭をもたせ掛けた。 「それにしても、さっきの託生は色っぽかったなぁ、まさかあんなこと言うなんて」 「えっ」 「ギイので濡らして・・なんてさ、オレ、今日一日思い出してしまいそう」 「だから、そういうこと言うなよって何回言ったら分かるんだよっ」 託生はぱしゃっとオレに湯をかける。 「いや、褒めてるんだけど?昔はそういうこと全然口にしなかったからさ、別に不満があったわけじゃないけど、託生も大人になったなぁって感慨深いというか何というか」 「・・・」 「でも昔みたく最後まで恥ずかしがったままの託生も捨てがたいよなぁ、めちゃくちゃ可愛かったし、オレ、祠堂のあの狭いベッドでもう一回やってみたいって時々思うんだよなぁ。あの頃の託生、懐かしいなぁ」 最後まで言う前に、ざばっと音を立てて託生が湯船から立ち上がった。 見上げると、怒りのオーラが漂っている。 「あのさ、ギイ」 「うん?」 「ぼくたち付き合い始めてずいぶんになるよね?」 「あ、ああ」 「もう数え切れないくらいギイと寝てるよね?」 「・・そうだな」 託生はふっとあの不敵な笑みを浮かべ、一息ついたあとに静かに言った。 「ぼくだって別にああいう恥ずかしいこと言いたくて言ってるわけじゃないんだぞ。言わないといつまでたってもギイが言わせようと意地悪するし、だから言ってるのに、恥ずかしがってた昔の方が良かったってどういうことだよ」 「いや、そういう意味じゃ・・」 「いつもギイが好き勝手してるくせに、何だよ、それ」 託生の言葉に、さすがのオレもかちんときた。 「じゃあ託生は気持ちよくなかったって言うのか?」 「そういうこと言ってるんじゃないだろ」 「好き勝手って言うけど、お前だってああいうこと口にした時の方が感じてるじゃないか、オレのせいだけにするなよ」 ああいうのはどちらか片方だけの問題じゃないはずで、もし本当に託生が心底嫌がってることなら、オレだって無理強いなんてしてない。そうじゃないって分かってるからこそのことなのに、今さら何を怒ってるのかさっぱり分からない。 しばらく睨みあったあと、託生はどこか傷ついたような目をして口を開いた。 「・・・分かった。もうしばらくギイとはしない」 「・・・っ」 「昔のぼくの方がいいんだろ、そういうこと平気で言うようなぼくは嫌だってことだよね」 言い捨てて、託生は浴室を出て行った。 いったい何が託生の地雷だったのか。時々託生のことが分からなくなる。 分からないながらも、つまらないことで喧嘩になってしまったということは分かる。 一方的に「しばらくセックスなし」宣言をされてしまったけれど、どう考えてもオレが悪いとは思えない。 思えないのだから、簡単に謝る気にはなれなかった。 喧嘩なんて今までだって数え切れないくらいしてきたから、結局仲直りすることくらい分かってる。 けれど、とりあえず、 「オレからは謝らないからな」 先ほどまでの甘い雰囲気などどこへやら。 何とも苛立たしい気持ちのまま、オレも浴室を出た。 後編へ |