ラウンド9 「あ、章三くん、ねぇねぇ、あれ鹿?」 奈美子が章三の肩を叩いて、山裾を指差す。そこにはまだ小さな鹿が不思議そうにこちらを見ていた。 「あー、そうだな、気候もいいし出てきたんだな」 ぜんぜん感動した風でもなく、章三はちらりと鹿を見ただけで軽く肩をすくめる。 「何よ、その無反応。鹿がいるなんて嘘みたい」 「狸とかイノシシとか。その手の動物はけっこう出てくるぜ、な?葉山」 「え?あーそうだね」 どこかニヤニヤと章三とギイが託生を見る。 「どうかしたの?」 奈美子がきょとんと首を傾げる。 「いや、葉山もさ、初めて鹿見た時にはそりゃもう大騒ぎでさ。生まれて初めて見たわけでもあるまいし。うるさいったらなかったよな、ギイ」 「可愛いじゃないか」 「だから男を相手に可愛いとか言うなっ!」 「あら、私は葉山さんの気持ち分かるなー。だって、野生の鹿とかウサギなんて、滅多に見ることできないもの、ね?葉山さん」 「そうだよね!ほらー、二人とも子供心がないんだよ。あ、奈美子ちゃん、時々リスも見ることできるんだよ」 「ほんとに?うわー、見たい見たい」 カートの後部座席で託生と奈美子が意気投合して盛り上がる。運転席と助手席のギイと章三はやれやれというように顔を見合わせた。 ここはゴルフ場で、動物を見にきたわけじゃないんだからな、と言いたいところではあるが、やけに楽しそうな二人に余計な口出しはしないことにした。 |