ラブロマンス1


まさかこんなことになるとは思わなかった。
オレも、もちろん章三も。

夏休み唯一の登校日の帰り、オレは託生と章三を東京の自宅に誘った。
最初は何だかんだと文句を言っていた託生だが、最終的には一緒に来てくれた。
実家には誰もいないし、章三と三人でキャンプ気分を味わうつもりだった。
食事に関しては、章三がいれば問題はない。いや、むしろ、章三の作る飯を堪能したくて誘ったといってもいいくらいだ。
一応手伝うつもりはしていたが、結局オレも託生も役には立たないと判断され早々に章三にキッチンから追い出されてしまった。
「赤池くんに悪いから、やっぱり手伝おうかな」
ソファに座る託生がそわそわとキッチンの方を伺う。
さっき魚を焦がして怒られたくせに、まだそんな心配するのか、託生?
どうせ章三も期待しちゃいないぞ?
「放っておけって、オレたちが行くとまた邪魔にされる」
託生の隣に座り、肩に手を回そうとすると、ぺちりと叩かれた。
「痛いって」
「赤池くんがいるよ」
「知ってるよ」
だけど、今ここには二人だけなんだからキスくらいしたっていいだろ?
なおも近づこうとすると、託生はふいっと顔を背けた。
「託生ぃ」
「もうギイってば、ちょっとは大人しくしててよ。ほら、洗濯物を干すとかさ」
洗濯ものぉ?
「うちの洗濯機は全自動で、ちゃんと乾燥までしてくれます」
「あ、そ。偉そうに言うけどさ、さっき赤池君に助けてもらったんだろ?」
いやあれば、ちょっと考え事しててうっかり洗剤を入れすぎただけだぞ。
じりじりと託生との距離を縮めていくと、託生はクッションを胸に抱きしめてソファの端まで逃げた。
「いいだろ、ちょっとキスするくらい」
「だめだよ」
「ケチ」
「ケチじゃない!常識だよ」
もう、っと頬を膨らませて託生がオレの肩を押し返す。
子供っぽい仕草がどうにも可愛く見えるのは、オレが託生に惚れてるせいなんだろうな。
オレはなおも託生へとにじり寄り、
「じゃあ、夜に二人きりになったらいいのか?」
と聞いてみる。
「え、それは・・・」
一瞬、託生が口ごもる。それを見逃すオレではない。
「いいんだよな。よし、約束だぞ。オレが誘っても断るなよ」
一気に言ったオレに、託生が唖然とオレを見返す。
「何でそんなことになるんだよ。だいたいね、赤池くんも泊まるんだろ?そんなの無理だよ」
あー、それは確かに難しいかもな。
託生の声、聞かせたくないしな。いや、でも章三を1階の客間に泊まらせればいいか。
オレの部屋2階だし。よし、そうしよう。
「託生くん、解決策は見つけました。なので、仮契約」
そう言って、託生の頬にキスしようとした時、背後から嫌ぁなオーラが漂っているのを感じて振り返った。
戸口に仁王立ちになっている章三を見つけ、がっくりと肩を落とす。
「章三、お前な〜」
「それはこっちの台詞だ。人を働かせておいて、お前ら二人で何やってんだ」
「あ、赤池くん、助かった」
心底ほっとした託生の声色。何なんだ、それは?
オレと託生の仲を・・というより、不純同性交友を認めていない章三は、いつも絶妙のタイミングで邪魔をしてくれる。
もちろん、絶妙のタイミングで助けてくれることもあるので、文句は言えないのだが・・。
まるでいたずらを見つけて叱る親と叱られる子供のような構図に、しばし三人とも無言でいたのだが、やがて章三がふんと鼻を鳴らした。
「飯、できたぞ」
身につけていたエプロンを外して、オレへと放り投げる。
さっさとダイニングへと戻る章三の背中へ
「すげぇ早業」
と、思わずつぶやくと、託生もまた、
「まるでお母さんみたいだよねぇ、赤池くん」
と、怖いもの知らずの台詞を吐いた。
お前、章三に聞かれたら殺されるぞ。













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